え………。このひとが姉?文乃…ふみ姉ちゃんなのか?俺は困惑を隠せない。
「あ…ごめんね。これじゃあわからないよね。」
俺の不審そうな様子を見てとったのだろう。彼女は申し訳なさそうに詫びると、顔を隠していた長い髪を上げた。
髪と同様、ぞっとするほど青白くきめ細かい肌…。魔物らしく整った顔立ち…。どことなく痛々しくも強い眼差し…。
肌の色と眼光は以前と全く違っているが…間違いない…。このひとは…。
「ふみ姉ちゃん!」
俺は思わず声を上げた。
「姉ちゃんっ!一体何があったの…俺、ずっと心配していたんだよ。」
ああ…ようやく会えたっ!嬉しさと驚きのあまり声が大きくなる。そんな俺を見て姉はますます申し訳なさそうにする。
「あ…うん。心配かけてごめんね…ゆうくん…。」
有妃はしばし呆然としていたが、ようやく正気に戻ったようでじっと姉を見つめる。そして何度か匂いを嗅ぐようなしぐさをした。
「佑人さんと相当近い身内の方の匂いですね。お義姉さんに間違いないでしょう…。」
俺の耳元でそっとささやく有妃。
何やらトラブルか?という事で、周囲の客たちの視線も俺達に集中しだす。異常に気が付いたダークスライムの店員。エレンもこちらにやってきた。(ちなみにエレンも素敵な男を見つけたようだ。あれから色々気になっていたので本当に良かった。)
「何かと思ったらまた君たちなの…って思ったけど、あら。文乃さんのお知り合い?」
「はい。そうなんですよエレンさん。」
エレンは呆れた様に語りかけるが、ふみ姉とは顔見知りらしく親し気に話し始めた。
だが、正直言ってこれ以上注目されたくない。俺は有妃と姉の二人に提案した。
「ま、まあここではなんだから…とりあえず店を出ようか?」
「えーと…。それがいいでしょうね。佑人さん。」
「みんなこっち見てるね…。ごめんねゆうくん。騒ぎにしちゃって…。」
周りから注目の的になっている事に気が付いたのだろう。二人ともすぐに同意した。
「それではあらためまして…。はじめまして。このたび佑人さんの妻になりました有妃と申します。ふつつか者ですが今後ともよろしくお願い致します。」
「これはご丁寧に…。はじめまして。佑人の姉の文乃です。こちらこそ弟がいつもお世話になっております。」
有妃と姉はかしこまった挨拶をした。両者の性格を表すかのように丁寧な態度だ。
外で話す様なことでは無い。という事で結局あれからすぐに帰宅した。今は自宅の一室。有妃とふみ姉は向かい合って、互いの目を真正面から見据えている。
有妃はいつもの優しい笑顔。姉も容姿こそ幾分変わったが、かつての様な穏やかな微笑みを浮かべている。
…
…
「そうなんですか。有妃さんは佑人と……」
「はい。佑人さんが勤めていらっしゃる会社の社長が、私の長年の友人で……」
…
…
「それでゆうくん…佑人はね…」
「まあ。佑人さんったらそんな事をしていたんですか…」
「もう。ふみ姉ちゃん。今そんなこと言わなくたっていいじゃないか…」
…
…
談笑している俺達。一見したところ和やかな雰囲気だ。だが、なぜだろう。空気が妙に張りつめている。姉と有妃との間で、互いに対する抑えきれない警戒感がひしひしと伝わってくる。この緊張感は結構きつい…。俺は耐えきれずに、わざとおどけたように語りかける。
「なんかふたりとも顔が強張ってるんですけど〜。堅苦しいのはやめようよ〜。ねっ…。」
俺は無理に明るく振る舞い、何度もふたりを促した。姉も有妃もそんな俺の言葉を受けて、互いに固い笑顔で向かい合う。
有妃の真紅の瞳。ふみ姉の青白い瞳。強い光を放つ眼差しが絡み合う。
しばらくそのまま見つめあっていたが、やがて両者はほっとため息を着いた。
「ごめんなさい佑人さん…。お義姉さんが間違いなく旦那さんがいらっしゃって、その方の事を心から愛しておられるのがわかりましたから…。」
「お姉ちゃんもだよ。有妃さんがゆうくんの事。本当に想ってくれているのが良くわかったから…。心配かけちゃってごめんね。」
ふたりは俺を見つめて切なそうに笑った。
だが、俺と有妃の馴れ初めの事。俺の子供の頃の事。話と言ってもその程度の事だ。有妃と姉がいう様な、深刻そうな話はしていなかったはずだが…。これではまるで心を読みあう能力者の様だ。
疑問に思った俺はつい口にしてしまう。
「あの。ふたりともそんな重い話はしていなかったと思うけど…。」
ふみ姉は何をいまさらとばかりに俺を諭すように言う。
「あのね。ゆうくん。お姉ちゃんも最近わかったけ
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