「寒っ………。」
仕事終わりの冬の夕暮れ時。寒さのあまりつい言葉が出てしまう。
肌に突き刺す冷気…
骨まで凍える様な寒風…
真冬らしからぬ暖かさが続いていたが、最近ようやく冬本来の気温になってきた。
ああ…早く帰りたい。家には有妃が待っていてくれている。有妃の温かく柔らかい体で抱きしめてもらってぬくぬくしたい…。
そんな想いを抱きながら俺は帰り道を急ぐ………
よし!やっと到着した…。俺は一刻を争う様にしてドアを開ける。
「ただいま有妃ちゃ…」
言い終える前に何かが抱き着き、続いて絡みついてきた。それは柔らかく、温かく俺を包み込んでくれる。
「佑人さんおかえりなさいっ!寒くて大変でしたねえ…。」
慰める様な優しい声…。穏やかに俺を見つめる真紅の瞳…。愛する妻、有妃の素敵な笑顔だ。有妃は蛇体で俺に巻き付き、ぎゅっと抱きしめてくれる。
ああ…とっても温かく、柔らかで、いい匂い…。俺もうっとりして有妃を掻き抱く。
「ただいま有妃ちゃん…。今日は寒くてつらかった…。」
豊満な胸に顔を埋めて甘える俺。有妃は微笑んで見守ってくれる。
「よしよし…。今日も一日よく頑張りましたね!さ、夕ご飯はシチューですよぉ〜。たくさん食べて温まってくださいねっ!」
有妃はいつものように頭を撫でてくれた。いい子いい子するかのような手つきがとても心地よい。俺は脱力してその身を有妃に委ねた………
「ごちそうさま!とっても美味しかったよ!ええと…シチューの肉がいつもと違う様な?」
「はい!今日はいつも以上に良いお肉なんですよ〜。ちょっと奮発しちゃいました。」
夕飯を頂いた後のまったりとした時間。俺達は何気なく談笑する。いつもと同じだけれど、それがとても大切で幸せな時間…。
有妃は楽しそうにおしゃべりしながら、俺を優しく見つめ続ける。その心地よさを味わっていると、彼女は何かに気が付いたかのように「あ…そうでした。」と呟いた。
「どうしたの有妃ちゃん?」
「うふふっ…。ちょっと待っていて下さいね…。」
有妃は悪戯っぽく微笑むと何やら取りに行った………
「はいっ!メリークリスマス!」
「ああ〜。そう言えば今日は…」
有妃が満面の笑顔で持ってきたのは、とても美味しそうなケーキ。そうだ…今日はクリスマスイブだった。有妃と一緒になって初めてのクリスマスだった去年。俺は風邪で寝込んでおり、それどころでは無かった。実質今年が有妃と祝う初めてのクリスマスといってよい。
俺は有妃の髪色のような純白のケーキをただ見つめる。クリスマスを祝うなんていつ以来だろう…。大人になってからは全く縁が無いものだった。まして異性と過ごすクリスマスなんて俺には…
「そうですよ〜。クリスマスですから一緒にケーキ頂きましょう!………どうしました。佑人さん…。」
さまざまな思いが胸に溢れ俺は言葉を無くす。そんな姿を見て有妃が怪訝そうに問いかけてくる。
「あ…いや。」
思わず言葉に詰まってしまう。だが…そうだ。よく考えればプレゼントとか全く用意していなかった。
馬鹿…せっかく有妃がケーキを用意してくれたのに…。本当に俺は対女性経験値ゼロだ…。気の利かない俺自身に呆れながら有妃に頭を下げる。
「ごめん有妃ちゃん…。プレゼント…まだ用意していないんだ。お詫びに今度の休み、有妃ちゃんの欲しいもの買いに行こう。」
申し訳なさそうにしている俺を見て有妃は朗らかに笑った。
「もう。いやですよぉ。そんな気を遣って頂かなくてもよろしいのに…。でも、そう言って頂いて嬉しいです!」
「有妃ちゃん…。」
「ふふっ。そんな悲しいお顔はいけません…。ケーキが美味しく頂けないですよ…。」
慰める様に優しい言葉を掛けてくれる有妃。俺はほっとしてうなずいた。
クリスマスと言ってもたいした事をする訳では無い。有妃と一緒にケーキを食べて、お酒を飲んで、色々おしゃべりする。酔った勢いで意味も無くクラッカーを鳴らしたりもした。
でも…そんな些細な事がとても楽しい。少し酔ったのだろう。幾分饒舌になっている有妃がとても可愛らしい。とにかく大好きな人と一緒に居ると心から落ち着く。
有妃と知り合う前。世間に背を向けて意気がっていても、この時期は暗い想いが抑えきれなかった。あえて平気なふりをして、意識しないでいようとしても、やっぱり寂しい。つらい。苦しい。どんどん心に澱のようなものが溜まっていった。
それを有妃が全部取り払ってくれた。哀れな俺を優しく抱きしめてくれた。今では当時が悪い夢のように思える。ああ…この安らぎにずっと
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