第9章 お姉ちゃん襲来! 1

 「あの………佑人さん。お義姉さんの事なんですけれど…。郷里の者からメールが来まして………」

 「なにかわかったの?」

 「はい…。それが………佑人さん。落ち着いて聞いて下さいね……。お義姉さんは………」










 





 俺は悶々として物思いにふける。ここはいつもの魔物カフェ。目の前には楽しそうにおしゃべりする有妃…。今日も穏やかな休日だ。午後過ぎまで有妃と存分にいちゃいちゃした後、買い物ついでに立ち寄ったのだ。
 最近はこの狸茶屋に立ち寄る事が多くなったのは前に述べた。ここは田舎町ゆえに魔物がくつろげる店はそう多くない。その点狸茶屋は魔物娘が快適に過ごせるような設備が数多く整っているのだ。

 有妃としては独身の魔物とのトラブルは気にしている様だが、実際はパートナーがいる男には手を出さないという不文律は固く守られている。
 それゆえにやむを得ないという風を装いつつ、実際は有妃も店で伸び伸びと過ごしている。

 「それでですねえ…可笑しいんですよ佑人さん……」

 「へえ…そうなんだ…。」

 有妃は相変わらず目の前でしゃべっている。俺も笑みを浮かべてうなずく。だが…内容は全く頭に入ってこない。いつもは有妃と一緒に居るだけで穏やかな気持ちになれる。だが、今日は言いようもない不安が渦巻いている。

 「ねえ…どうでしょう佑人さん。私達も…」
 
 「うん。そうだね…。」

 にこやかで、楽しそうに語りかける有妃…。実は…消息不明の俺の姉について、有妃が故郷の知人に調査を依頼してくれた。その知人は魔術に長けているそうなので、姉の行方を様々な魔法を行使して探査してくれたのだ。

 その結果………魔物の魔力が大変強く感じられる。おそらく人としては生きていないだろう。という事が分かったそうだ。姉は魔物になったようだ………。

 最近は魔物化願望を持つ女性も多いらしいのだが、姉がそうであったとは聞いた事が無い。浮気性の旦那に悩んでいた事…。連絡が取れなくなっている事…。色々不安になる要因は多い。今後俺は一体どうすれば良いのだろう…。

 「佑人さん…」

 駄目だ…。全く抑えられない。不安な思いがじくじくと湧き出す。

 「ねえ…佑人さん。」

 有妃が何か言っているが心ここにあらず。俺は無意識に何度もうなずく。

 「ゆ  う  と  さ  ん  !  !」

 その時…非難がましい声音が耳元で響く。俺は驚きその方向に目をやった。

 「っ!!……あ、有妃ちゃん…。えっと…。」

 「もう!さっきから一体どうしたんですか!ずうっと生返事ばっかりして…」

 有妃の真紅の瞳が幾分不快そうな色を孕んでいる。俺は慌てて頭を下げる。

 「ごめん…。ごめんね…。」

 虚ろな様子で何度も詫びる俺を見た有妃は全てを察したようだ。気遣う様に問いかけてきた。

 「お義姉さんのことですか…。」

 「いや…別にそうじゃなくて。」

 図星を突かれた俺は慌てて否定する。

 「佑人さん…前にも言いましたよね。私は佑人さんの事はなんでもわかっちゃうんです…。そんな苦しい嘘はいけませんよ…。」

 いつの間にか俺の隣に席を移していた有妃が蛇体で巻き付く。見れば労わる様な真紅の瞳。

 「有妃ちゃんごめんね…。」

 「お身内の事が心配なのは当然ですよ…。そんなに謝らないで下さい。」

 有妃は切ない笑みを見せると俺の頭を胸に抱く。温かくふくよかな胸の感触にただ癒される。有妃の優しさにはいつも本当に有難く思う。

 最近は有妃以外の白蛇についても色々知る機会が多い。俺と同じく白蛇の妻を持つ男とも知り合いになった。この知人は奥さんに散々酷い事を言って怒らせた挙句…アナルに尻尾を突っ込まれて魔力を入れられてしまう。という壮絶な経験をしている。

 魔物と結婚しているにもかかわらず、人間のプライド云々を強調するその知人の事を、俺は不快に思っていた。知人も俺に対して妙に上から目線で接しているところがあった。
 だが、奥さんに散々調教されて魔力を入れられた結果…以前の高慢な態度は嘘のように消え去った。今では温厚篤実の見本のようになっている。奥さんとも以前にもまして仲良くしている様だ。

 他の人についても、浮気がばれて奥さんに丸呑みされたとか…。同じく浮気を疑われて強制的にお漏らしさせられたとか…。相当ハードにお仕置きされた話を伝え聞いている。
 ネットで白蛇という種族については、ある程度知識を得ているつもりだった。だが実際に聞く話は想像を超えるものが多い。

 もっとも有妃はいつも優しく思いやり深い。話せばわかってくれる。だが、本当に怒らせれば他の白蛇たちと同じようになるのかもしれない…。もちろん有妃は俺に酷い事はしない。という信頼はあるが、
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