「あ…おかえり!これそうよね?さっき見たら届いていたわよ。」
「………うん。ありがとう。」
もうすっかり暗くなった冬の夕暮れ時、バイトから帰宅した僕に彼女が声をかける。どんなモデルも及ばない見事なスタイルと、抜群の長身の女性だ。そのためいつも僕は見下ろされるような感じだが、それもまた心地よい。彼女は神妙な表情で封筒を差し出す。そこには……先日就職試験を受けた企業名が記されていた。
ああ…とうとう運命の日が来た。だが、一体これで何社目になるのだろうか。先の見えないアルバイト生活がいつまで続くのだろうか。不安で言葉も無く黙り込んでしまう。
「大丈夫?」
心配そうに見つめる僕の彼女…美夜子という。燃える宝石の様な真紅の瞳に、夜を思わせる紫の長髪の持ち主だ。肌は病的なまでに青く、尖った耳と漆黒の翼、二本の角が強い印象を与える。ぞっとするほど退廃的で淫らな顔立ちだが、それでいて驚くべき美貌を誇っている。
当然彼女は人では無い。デーモンと言う魔物娘の一種族だ。
「ね…。つらいのなら私が最初に見てあげようか?結果はキミの心を魔法で保護してから伝えるっていうのはどう?」
弱弱しい微笑みを浮かべる僕を見かねたのか、労わる様な眼差しをする。よそではいつも鋭い眼光を崩さない彼女だ。だが僕に対してはいつも優しく穏やかな表情を見せてくれる。
美夜子は力づける様に長い尻尾を絡ませてきた。僕はなんとか気力を振り絞って答える。
「ううん。大丈夫。ごめんね。心配かけちゃって…… 」
覚悟を決めて深呼吸して…そして封を切る。そこには………今後のご健闘をお祈りいたします、の文字…。ああ…今回も不採用だった…。
今度こそ、今度こそと願い続けてこれが何回目の不採用通知だろうか。ショックのあまり崩れ落ちる様に座り込んでしまう。深いため息を着くと俯き続ける。
「そっか……。残念だったわね……。」
美夜子は僕に寄り添うと、そっと抱きしめてくれた。漆黒の翼も広がって覆ってくれる。包み込まれるような温かさにほっとして顔を上げると、そこには慈愛に満ちた微笑み。
「……………。」
思わず泣きそうになってしまった僕は、とうとう我慢できずに豊満な胸に顔を埋めた。
「よしよし。キミが一生懸命頑張っているのは良く分かっているわよ。くじけないで努力しているのもね…。」
柔らかい胸の感触。美夜子は穏やかに、そして甘く慰めてくれる。温かく包まれて僕は安らぐ。
だが、そんな僕を優しく見つめながら、彼女は少々意地悪く問いかけた。
「あら。遠慮なんかする必要は無いわよ。私の胸の中で泣いちゃえばいいのよ。いつもみたいに、いい子いい子してあげる…。」
「そんなこと…。」
「いいのよ。我慢しないで泣いちゃいなさい…。思いっきり泣けばすっきりするから…。」
僕の頭を抱くと優しく何度も撫でてくれる。愛情深い慰めの声が心を蕩けさせる。僕はとうとう涙ぐむと嗚咽を上げて泣き始めた…。
魔王の統べる王国と国交が結ばれて数十年…。今では魔物娘との共存は当然の事となっている。僕も美夜子とは高校時代に出会い…契約を結んだ。
もっとも彼女の事は普通のサキュバスだと思っていた。実は私はデーモンだ、と正体を明かされ契約を迫られて驚いたのだ。いかに魔物との共存が進んでいても、過激派筆頭のデーモンと知れると色眼鏡で見られる。それも面倒なのでサキュバスに擬態しているのだと彼女は言った。
ちなみに契約にあたって美夜子の真の名も教えてくれた。だが、僕では発音すら出来ない様な奇妙な言葉によるものだった。困り果てた僕を見て、別に美夜子でいいよ、とからかう様に笑ったのが今でも忘れられない。
なんでこんな僕を選んだんだろう?そう思わざるを得ないほど、彼女と僕の落差は大きかった。人魔共学の学校だったゆえ、周りに美少女は当たり前のように存在した。だが、その中でも屈指の美しさであり、おまけに成績も校内で一、二位を争う実力。人を寄せ付けない雰囲気はあったが、それもまた魅力的だった。美夜子は常に注目の的だったのだ。
それに引き替え僕はどこにでもいる…いや。むしろ下から数えたほうが早い様なボンクラ高校生。人より秀でているものは全く無く、常に悶々としているコンプレックスの塊だった。
本当にこんな僕でいいのか?信じられずに何度も問いただす僕に彼女は言った。
「でも…それがいいんじゃない!キミは自分の事を知らなさすぎよ!」
華やかに笑う美夜子がとても新鮮だった。それまでは常に固い表情で笑顔など見た事は無かったのだ。
学校一の美少女に見初められて幸福の絶頂だった…。僕にだけは見せてくれる温かい笑顔と無償の愛情は、ますます彼女の虜にさせ
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