第8章 インキュバスさんお披露目パーティー 3

 俺と有妃はただ互いの体を求めあう。何度もキスを繰り返し、滑らかな蛇体を愛撫し、ぎゅっと抱きしめ、豊かな双丘に顔を埋める…。そしてじっと見つめあった後に、照れたように視線を外して店内を眺めた。

 いつしか店の真ん中にステージが置かれ、勇気あるカップルがそこで行為を見せつけている。皆熱い眼差しで注目しており、歓声を送ったり冷やかしたりと夢中になっている様だ。今は鍛え抜かれた姿態のアマゾネスが、ブーイングをものともせずに男に馬乗りになっている。

 彼女は『我らの種族の伝統を弄ぶ貴様らに、男の犯し方というものを教えてやるッ!』と大音声で宣言したものだから、皆の猛反発を受けてしまっているのだ。男の方も散々野次を受けながらも必死に頑張っている様だ。

 俺達はただその光景に見入る。周囲の濃く粘っこい空気が押し寄せてくるようで、知らぬうちに体が熱くなってきた。

「…ねえ…佑人さん…。」

「ごめん…。さっきも言ったけどちょっと無理…。」

「ですよね〜。私もさすがにステージ上では…。」

 店の雰囲気にも馴染んで気持ちも高ぶっているが、まだみんなの前で見せつけるほど勇気はない。しかもこの熱演の後では余計二の足を踏んでしまう。俺と有妃は顔を見合わせて苦笑した。

 だが…そこで妙に甲高い笑い声が耳に入った。俺と有妃の間のゆったりとした空気が乱されて思わず目をやる。何事かと思えば、そこには先ほどのラミアが蛇体を悠然と男に絡ませていた。彼女は相変わらず俺達を見つめて何やらパートナーに耳打ちしている。

 まだこちらをじろじろ見ていたのか…。原因は俺達にある事は承知しているが、さすがに気持ちが苛立ってくる。有妃も不快そうにため息を着くと、幾分鋭くなった視線を彼女達に向けた。

「え〜と…。これは礼儀に反すると思うのですが…。いくら私たちが切っ掛けだとしても…。ちょっと一言言ってきますねっ。」

 有妃は笑顔でそう言うと立ち上がろうとした。だがその瞳はエレンに向けていたのと同様か…それ以上に強い光を放っている。いけない!俺は慌てて有妃を引き留める。

「まあまあ有妃ちゃん!ほら…あのカップルも興奮しているんだよ…。状況が状況だし…。こんな事忘れて楽しもうよ!ね…お願い。」

「………そうですかあ?まあ…佑人さんがそうおっしゃるのなら私も事を荒立てませんが……。」

必死にしがみついて押しとどめる俺を見つめ、有妃は不承不承ながらも席に着いた。

「でも…。ずっとじろじろ見られっぱなしではどうも癪に障ります。ふふっ…。こちらも負けずに見つめてやりましょうっ!」

「有妃ちゃん…。だから、やめようよ…。」

 悪戯っぽく笑うと有妃はラミアのカップルをじっと見つめる。まずい…。こんな眼をつけるような真似をして相手も黙っていないだろう。不安な俺を無視するように、有妃は挑戦的な笑みを送り続ける。俺と同様に困っているのだろう。ラミアの相方の男も慌てたようにパートナーをなだめている。

 もしかして大蛇同士が身を絡みあわせての戦いになるのか…。そんな思いが一瞬頭をよぎったが事は意外な展開を迎えた。
ラミアは蠱惑的な笑顔をこちらに向けると番の男をぐるぐる巻きにしたのだ。そして頭を胸に抱いて優しく愛撫し、何度も何度も口づけする。思わぬ事になり俺達はあっけにとられて見つめるだけだった。

 だが…その光景は淫らで嗜虐的だった。蛇体に拘束された男は愛撫を受けて何度も体を震わす。それを見たラミアは酷薄な笑みを浮かべ、決して男をイカせずに寸止めの快楽を送り続けるのだ。男はもっと深い快楽を求めて何度も哀願している。
 しかし、ラミアは無視するかのように蛇体をさらに念入りに絡みつかせた。とうとう男は身動きできないほど拘束されてしまった…。快楽と焦燥感が交じった男の喘ぎ声が耳に絡みつく。

 俺は半ば呆然としながらも以前見た映像を思い出した。それは大蛇が獲物をぐるぐる巻きにして丸呑みにするものだが…これもまるで男がラミアに食われているとしか見えないではないか…。

「すごい…。食われてるみたいだ…。」

 知らぬうちに思いが呟きとなる。だが、ふと気が付いた。今見ている光景は俺と有妃の日常と全く同じではないのか?いつも有妃にしっかりと巻き付かれ、甘い安らぎに浸って、情けなくあえいでいるのだから…。
 良く考えれば今まで自分たちの姿をこの様に客観視する事など無かった。そうか…。俺もこんな風に有妃に食われているんだ…。妙な興奮を抑えきれずに、恐る恐る有妃に聞いてしまう。

「ねえ…有妃ちゃん…。俺もああなの…。」

「ん?とんでもないっ!佑人さんの方がずっと可愛らしいですよぉ…。」

 同じラミア属の痴態を目の当たりにして有妃も発情しているのだ…。とろける様な甘い瞳で俺を見つめた。
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