俺達に向けられていた視線もいつしか途絶え、今は皆が勝手に談笑したりいちゃついたりしている。ただ…斜め向かいの金髪のラミアのカップルだけは、こちらを見てひそひそ話している。正直言ってこれは気になる。俺と有妃は微妙な顔を見合わせて笑いあった。
「まだ気にしている人もいるようですが…やっと静かになりましたね。一時はどうなるかと思いましたよ。」
「結局俺がお披露目されてしまったけどね…。」
「あ、ごめんなさい…。でも、これだけ多くの方にご覧頂いたのですよ。例の噂によれば私達今年は良いことあるかもしれませんね。」
「え?ああ…。あの話?」
都合の悪い事から話題をそらしてきた有妃に苦笑しながらも、俺は有妃のいう噂の事を思いだす。それは『人魔の夫婦が愛欲に溺れる姿を、衆人環視のもと魔王に捧げれば祝福を得られる』という話だ。
本来はアマゾネスの風習を開運の話として広めたのは、これで一儲けしようと企む魔物達ではないかとの専らの噂だ。エロい事と面白い事が何より好きな魔物達は、ただの噂にすぎないと知りつつも大喜びで飛びついた。
結果多くの魔物達に、夫婦の交わりを他人に見せつける風習が広まる事になったが、それは何度も述べた通りだ。
噂を広めたのはやっぱり商売上手の刑部狸かな?狸さんが経営するこの店でも便乗するような事をしているし…。そんな事を取り留めも無く思っていると、有妃がそっと服の袖を引っ張った。
「お披露目すると特に子宝に恵まれるって言いますから…。あ、もちろん私も信じている訳では無いんですよ…。まあ、ちょっとした験かつぎとでも言いましょうか…。佑人さんとの赤ちゃんは欲しいですし…。」
有妃は少し恥ずかしそうに顔を赤らめた。
2人の初Hの時から有妃は孕ませて欲しいとか妊娠させて欲しいとか何度も言っていた。当初は興奮している故の事かとも思ったのだが、どうやら本当に子どもを欲しがっている様なのだ。精力のつく魔界産の食べ物とか、いつ交われば妊娠しやすいとか、色々気にかけている。魔物娘は子供を欲しがると聞いているので、有妃がそうであっても何の不思議もないのだが。
確かに俺も子供は欲しい。子連れの夫婦を見かけると羨ましくも温かい気持ちになる事が多い。今も幸せな日々だが子供と一緒ならばなお楽しい毎日になるだろう。人間娘と結婚して子供を作るなんて悪夢としか思えないが、魔物娘の有妃となら大歓迎だ。最近は心からそう思えるようになった。
有妃は子供が産まれてもそれまでと変わる事なく俺に接してくれるし、子供も有妃に似て温厚で心優しく育つだろう。不思議とその確信はある。でも…なぜだろう。俺の心の中にはなぜか不安と自己嫌悪めいた思いが消える事はないのだ。
俺の様な人間が子供を育てて行く事ができるのか?子供が短所を受け継いで不幸の連鎖に陥る事は無いのか?そもそも俺の様に世間に背を向けて生きてきた人間が、子供を持つ資格なんてあるのか?そんな思いに囚われてしまう事もある。
有妃に不安を打ち明ければ間違いなく力づけてくれるはずだ。でも、こんな歪んだ気持ちを伝えればきっとつらい思いをするだろう。優しく励ましながらも心の中では悲しむに違いない。俺は極力悟られない様に朗らかに笑ってみせた。
「そうだよね。…俺もこれから今以上に子作り頑張らないとね!」
黙って俺を見つめていた有妃だが、何かに気が付いたようにそっと笑った。
「子供の事が心配ですか?」
「えっと…。有妃ちゃん…あのね…。」
慌てる俺を見てそっとかぶりをふると優しく手を握ってくれる。有妃の手のじんわりした温かさが伝わってきた。
「駄目ですよ〜。私に隠し事は出来ませんからね…。佑人さん…なにか不安があるなら遠慮しないでお話してください。ね…。」
労わる様に見つめる有妃の視線に耐え兼ねて、俺はとうとう気持ちを打ち明けた。
「ごめん…。ねえ有妃ちゃん。俺の様な奴が子供を作ったり父親になったりする資格なんてあるのかな…。正直…不安なんだ…。」
「ああ…。でも、それならば私もずっと不安でしたよ。」
「本当?」
「はい。将来生まれる子供が……佑人さんに対して父親以上の感情を抱くようになったらどうしようかと…。妻として、母親として、どうするべきかとずっと思い悩んでいました。」
「…って、そっちの事なんだ…。」
いつも控え目ながら自信を持って励ましてくれる有妃も不安だったんだ…。と感じ入ったが、まさかの予想もしない答えに力が抜けそうになった。何とも言えない複雑な表情をしている俺に対し、有妃は当然の事だと言わんばかりに教え諭す。
「何を馬鹿な事をとでも言いたそうですけど…。でも魔物の間では母と娘で父を共有の夫にする事などそれほど珍しい事ではないんですよ。現
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