第8章 インキュバスさんお披露目パーティー 1

 俺はスクーターを走らせひたすら帰宅を急いでいる。朝ほどではないが体の芯まで冷え切ってしまう様な寒さだ。本来なら心身を苛む冷気以外の事は考えられないはずだ。にもかかわらず…早く有妃に抱きしめてもらいたい…。柔らかい蛇体に包まれて温まりたい…。貪る様に交わって存分に精を吐きだしたい…。そんな渦巻く思いは消える事は無い。
 
 今はもう白蛇の魔力に完全に蝕まれている状態だ。その影響で週末の帰宅時になると切なさや満たされない思いが溢れ出そうになるのだ。
 有妃自身は気を遣ってくれて、つらいなら気分を楽にしてあげるから遠慮しないで、と毎週の様に言ってくれる。ただ、我慢した後で抱きしめられる安らぎは言葉には言い表せないほどなので、それを味わいたくて少々無理してしまうだけの事だ。

 でも、こんな事を求めてしまう俺ってやっぱりマゾなんだろうか…。少々自嘲的な思いを抱いていると、いつの間にか見慣れた店の前を通過した。有妃との馴れ初めの地、狸茶屋だ。この店には結婚してからも立ち寄る事が多く、一緒に街中に出かけた時はよくここでお茶を飲みながらのんびりするのだ。そうだ。そう言えば狸茶屋ではあんな事もあった………










 




 「佑人さん。そろそろ一休みしましょうか?」

 「そうだね。喉も乾いたし…。」

 この日は休日と言う事もあり俺と有妃は久しぶりに街に買い物に出かけた。ファッションには全く関心が無い俺の為に有妃が服を選んでくれる事もあれば、本屋で一緒に欲しい本の品定めをする事もある。今回は後者だが、読書家でもある有妃のおすすめの本を読むことは、色々と興味深くてとても愉しい。

 そんなまったりとした時間も半ばを過ぎ、俺達は休憩の為に手ごろな店を探していた。あちこち冷やかしながら歩いていると、ふと以前見かけた記憶のある店構えが目に入る。そうだ。この店は…。

「あ…。有妃ちゃん。ここって…。」

「そうですね。ここは私達にとって記念の場所ですよ…。」

 なにかを懐かしむ様な眼差しをすると有妃は微笑んだ。そうだ。ここは狸茶屋じゃないか。忘れることが出来ない有妃との初対面の場所だ。たちまち胸が詰まる様な思いが甦る。あの時はとにかく有妃から逃げる事しか頭に無かった。魔物娘とはいえ女性と関わる事は面倒なだけだった。

 それが今ではすっかり変わってしまった。有妃は絶対に離れられない大切な人になったし、俺自身の心の持ちようも大きく変化があった。
 有妃と付き合う前は街中で見かけるカップルに対して、相当暗い思いを抱いてしまうのを抑えきれなかった。それが今では微笑ましい気持ちで彼らを見ることが出来る。今日も何組ものカップルを見かけたが、みんな幸せそうでなによりだな。と温かい思いが心に溢れてきた。

 本当に立場が変われば人の気持ちも簡単に変わってしまうんだなあ…。そんな思いにふけっていると有妃が俺の顔を覗き込んできた。

「どうでしょう?ここで一休みしませんか?」

「えっ?俺は構わないけれど……本当にここでいいの?」

 思いもかけぬ言葉につい怪訝な様子で問いかけてしまった。なぜならばここは独り者の魔物が婿探しに入り浸る場でもある。いくら俺が有妃のものになっているからとはいえ、万が一のトラブルが起きないとも限らないからだ。そんな俺の疑問を察したかの様に有妃は朗らかに笑う。

「はい。普段はまあ…あまり好ましくない場所ですが、今日は心配しなくても大丈夫でしょう。」

 そう言って有妃はドアに張り付けてある髪を指差した。ええと…何々?『インキュバスさんお披露目パーティー。〜カップル限定DAY〜』とあるが…。

「有妃ちゃん。これって…」

「はい。今日はカップル限定の様ですので特に問題は無いでしょう。」

「ああ。成るほどね…。でも、それはわかるけどインキュバスさんお披露目って…」

 まだ疑問が消えない俺は有妃に問いかけた。

「ふふっ…。どうやら新たに魔物の彼氏や旦那さんになった男の方を皆さんにお披露目する、という趣旨の様ですね。」

「て、いうとまさか…。」

 俺はまじまじと有妃の顔を見つめた。そう…以前にも述べたが、伴侶になった男と交わっている姿を他人に見せつける、というアマゾネスの風習。これが多くの魔物の間に広まっている事もあり、乱交パーティーじみた行為が魔物達の間でもよく行われるようになったという噂だ。無論あくまでもいたすのは自分の夫だけであろうから『乱交』とは違うのだが…

 まさかこんな身近な所でも行われていようとは…まあでもこの店ならあり得るか…。でも、そんな場所に俺を連れ込もうとするなんて、有妃も俺とのセックスを他人に見せつけたいのだろうか。そう思うと急激に羞恥心が心に湧き起こってきた。いや…それは駄目だ!まだ俺は
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