第5章 「友達」として…… 3

 もうすっかり通いなれた有妃の家へと向かう。プレゼントと今までのお礼の意味も込めて、彼女が好きな店で買ったケーキと洋酒を送る事にした。有妃は両刀遣いであり酒も大好きなので意外だったが、良く考えればうわばみと言う言葉もあった…。
 
 センスが絶望的に欠けている俺にとって、サプライズなんて真似をしでかしたら失敗すること間違いない。だから今回の贈り物も本人に色々聞いて確認した結果だ。本当に喜んでくれればいいのだが…。しかしほんの数か月前までは『〜記念日(笑)』とばかりに嫉妬と蔑視がない交ぜになった複雑な感情を抱いていたと言うのに…。今では嬉々としてそのための贈り物選びをしてしまう。

 やれやれ。こんな事を考えている場合ではなかった。今日は気持ちをしっかりと伝える日。君が大好きだという思いを告げる日なのだ。心の準備をしておかないと。
 けれどまあ変われば変わるものだ。初めて会った日は、嫌われてまで有妃から逃げようとする気満々だったと言うのに…。今ではもう彼女がいない生活に耐えられないだろう。

 だが、ちょっと待てよ…。初めて会った日?そうだった!なんでこんな事を忘れていたんだろう!色々考えているうちにふと思い当たった。あの時有妃に対して、お前は俺の精が目的なんだろうと、酷い言葉を言い放ってしまったじゃないか……。そうか。もしかしてその事をずっと気にして俺を襲うのを遠慮していたのか………。

 だとしたら原因は俺じゃないか…。有妃は最初に会った時から自分の思いを伝えてくれたじゃないか。なにが恋人としてみてくれないだよ…。ほんとうに俺は大馬鹿野郎だっ!!
 思わぬ事に気が付き気持ちは揺れる。どうしよう。だが…することは同じだ。しばらく考えた後、そう結論付ける。有妃にあの時の事を謝って思いを伝えるだけだ。そうするしかない。

 そんな葛藤を続けるうちに有妃が住むマンションに到着した。何年か前に建ったなかなか立派なマンションであり、まさか俺が招かれることになるなんて考えてもいなかった。よし…。覚悟はいいな…。少し震える手でインターホンを押した…。














 
 


 俺は有妃と一緒にお祝いの後片付けをしている。いつも世話になりっぱなしでは申し訳ないので、最近では色々家事を教わりながら手伝う様にしている。そうした所でたかが知れているのだが、笑顔でありがとうと言ってくれるのが嬉しい。手伝わせる事によって、俺の申し訳なさが少しでも解消されれば良いと慮ってくれているのかもしれない。

「さてと…。これで洗い物は終わりですね。ありがとうございます。助かりましたよ。」

「いえいえ。こちらこそごちそうさま。」

「ふふっ。それじゃああとはのんびりしますか。佑人さんは明日もお休みなんですよね?」

 いつもの様に笑顔で答えてくれる有妃。ろくに家事をしてこなかった俺だ。本当はダメ出ししたい所も多いのだろうが、そのたびに優しくこうした方がいいですよと教えてくれるのが有難い。さてと…。言うなら今しかない!俺は勇気を振り絞ると彼女の手を取る。相変わらず滑々で温かい、さわっていて心地よくなる手だ。

「あ…あの。有妃ちゃん…。」

「はい?なんですか佑人さん?」

 突然の振る舞いに驚くわけでもなく有妃は穏やかな表情で見つめた。そして俺が言葉を続けるのを待っている。


「ええと……………。」

「ん〜。どうしたんですか?そんな顔しちゃって…。おトイレなら我慢しないでいいんですよ。」

 俺は言葉を続けられず切なそうな顔になってしまう。有妃はおかしな人とでも言いたそうにくすくすと笑った。ええい馬鹿!!おどおどずるな俺!!覚悟を決める様に息を吸い込む。

「あの……。初めて会った時酷いこと言っちゃって本当にごめん。今さらだけど…。それと………俺は君の事が大好きなんだ………。」

「もう〜。そんな事まだ気にしていたんですか?あの時はお互い様だったじゃないですか。何も謝らなくていいんですよ。けれど…大好きだなんて嬉しいですよ。ええ!もちろん私も佑人さんが大好きですからね〜。」

 やった…。とうとう言った…。ようやく告白した…。思わず恥ずかしさのあまり俯いてしまう。だが有妃は苦笑すると、俺の頭をそっと撫で続けた。自分の事が好きかどうか尋ねる子供に対して、優しく肯定する母親でもあるかの様に…。いや。もちろん好きって言ってくれるのはとても嬉しい。でもそう言うのとは違う。駄目だ。伝えるならもっとはっきりと言わなければ。

「ありがとう。そう言ってくれてすごく嬉しいよ…。でもちょっと違うかな…。つまり、俺の事は男として見てくれているのか。君にとって食べるに値する存在なのかなっ……て事。もちろん食べるって言うのは、あの、つまり…せ、性的にって事だけれど…
[3]次へ
ページ移動[1 2 3 4]
[7]TOP [9]目次
[0]投票 [*]感想[#]メール登録
まろやか投稿小説ぐれーと Ver2.33