ようやく昼休み。待ちに待った昼食の時間だ。席に着くと早速有妃が持たせてくれた弁当を開く。おっ。今日は豚肉の生姜焼きか…。肉だけでなく色とりどりの野菜も花を添えており、とても華やかで美味しそうなお弁当だ。なぜかタコの形のウインナーがちょこんと乗っかっているのがご愛嬌なのだが。そんな俺の弁当を見て隣席の黒川がからかう様に言った。
「今日はタコさんウインナーか…。いつも愛妻弁当で羨ましいな。おい。」
「はぁ?ウサちゃんリンゴを入れてもらっているお前に言われたくはない。」
黒川の今日の弁当はサンドウィッチだが、華やかと言う点では俺の弁当に引けを取らない。そしてウサギの形に切ったリンゴがなんとも愛らしい。俺に反論され黒川も照れくさそうだ。
「でも黒川。いつも弁当は奥さんが作ってくれているんだろ?」
「ああ。そうだけど。」
「てっきりダークエルフさんは召使いに家事をさせるとばかり思っていたけれど…。」
お前は一体何を言っているんだと言う顏をして黒川は俺を見た。
「どうもお前はうちのお嬢様を誤解している様だな。お嬢様はとても優しい人でいつも俺の事を……。」
「わかったから。俺が悪かったから…。」
この話になると長くなるので慌てて黒川をなだめた。
「でも、お互いに変わったな…。」
「ああ。こんな風に奥さん手作りの弁当を持ってこられるなんて考えてもいなかったよ…。」
俺と黒川は昔を思い出すように語り合った。お互い二次元で妄想していた当時が嘘の様な状況だ。本当にいつも笑顔で美味しいご飯を作ってくれる有妃には感謝のしようが無い。だが、有妃と結婚する以前は満足に飯すら作った事が無かった。と言うか美味しいご飯を食べようとする事への関心が無かったのだ。
そういえばご飯と言えばあの事が切っ掛けだったな…。俺は有妃と『友達』になって間もない頃の事を思いだした…
狸茶屋で有妃と別れてからも心に妙なわだかまりを残したままだった。なぜ有妃は俺をあのまま帰したのだろう。白蛇と言えば欲しい男は意地でも自分のものにする種族ではないのか。とするとやっぱり俺は性的に食べるほどの魅力が無いのか…。でも図鑑には無理やり男を襲わないと書いてあったし…。いったいどういう事だろう…。
週明け会社に行っても悶々とした思いが消えなかった。そんな俺を見つけた桃里社長が、待ちに待ったとばかりに話しかけてきた。
「どうだ森宮君。有妃とはうまくいったか?」
「はい。お友達から始めましょうと言う事で…。」
「そうか。それは良かった!」
社長は快活そうに笑ったが、俺は内心の不安を隠して愛想笑いするしかなかった。
仕事も一段落した昼休み中の事だ。相変わらず鬱々として呻いていたが、不意にもふもふした何かで頭を叩かれた。いったいなんだ?と思い振り返ると、そこには刑部狸の咲さんの姿があった。当時彼女は会社で経理を担当しており、OLっぽい服装が意外と似合っていて可愛らしい。咲さんは悪戯っぽい笑顔を浮かべたと思ったら、芝居がかった口調で弁じだした。
「ようこそ魔物の世界へ…。我らの同胞になった君を歓迎するよ。森宮君。」
「はい……?」
彼女が一体何を言おうとしているのか理解できず俺はまじまじと見つめる。
「えーと…。咲さん。一体何の事ですか…?」
「いやいや森宮君。刑部狸のネットワークを侮らない方がいいよ。先週土曜日に君が狸茶屋で何をしていたのかは先刻承知なんだから。」
思わぬことを言われて動揺する俺を見て咲さんはニヤニヤする。まさか社長がしゃべったのか?そういう事を軽々しく話す人では無いと思ったのだが…。
「……それって社長から聞いたんですか?」
「おっと、勘違いしないでくれよ。社長の名誉の為に言っておくけれど、彼女はこの事を誰にも言っていないはずだよ。」
「それじゃあいったい誰が。」
焦って問い詰める俺をなだめる様に微笑むと、もふもふの尻尾で撫でる。そんな咲さんの尻尾の心地よさに動揺も自然と治まった。
「まあ落ち着きなよ。あの店をやっているのはうちの親戚筋でね。お得意様の桃里社長が、人間の男と白蛇を引き合わせていたと言うじゃないか。その人間の特徴を聞いてみるとこれまた君とそっくり。となると答えは一つだよ。」
ああ。なるほど…。ここはただの田舎街にすぎない。刑部狸がそれほど多く住んでいるとも考えにくい。同種の咲さんと関係があってもおかしくは無いだろう。納得した様な表情をした俺を見てうなずくと咲さんは話を続ける。
「わかってくれたかい?と言う事で君は白蛇さんにお持ち帰りされて、魔物の虜になったのかと思ったんだが……。どうやら違うようだな…。」
「そうなんですよ…咲
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