「どうぞ。」
エレンが微笑みながらコーヒーを持ってきた。先ほどの事を全く悪びれていなさそうな様子に、俺は怒りを覚えるよりもむしろ呆れてしまった。だが…このコーヒーはどうだろう…。ダークスライムコーヒーなんてとんでもない代物ではないのか?そう思うととても手を付ける気にならず、目の前の黒い液体を見つめるしかなかった。
「もう。そんなに疑わないで。今度は本当に大丈夫ですよ。」
エレンはむくれて見せるとクスクスと笑った。
「心配しなくていい。これは普通のコーヒーだよ。」
社長もそう言うと美味しそうに飲み干す。まあ、彼女が言うのなら大丈夫だろう。でも、もしこのコーヒーが原因でエレンに魅了されてしまうとどうなるんだろう…。そんな思いが一瞬心の奥底に浮かぶ。
ダークスライムがどうやって人間を犯すのか知識だけはある。散々魔物娘モノの二次元作品やらAVを見ている影響で、彼女達への秘めた欲望だけは人一倍だ。俺もエレンの粘液に全身を包まれて、頭の中まで快楽で一杯にされてどろどろになってみたい…。思わず被虐的な妄想を抱きながらエレンを見てしまった。
すると…彼女はにやにやした嫌らしい笑みを粘液で作られた顔に浮かべていた。まるでお前の秘密を知っているんだぞと言わんばかりに俺を見つめている。まさか心を読まれた?いや、そんな馬鹿な。キキーモラじゃあるまいし…。俺は動揺を隠して澄ました様子でコーヒーを口に付けた。
「そういえば桃里さん。いつもは旦那さんか魔物のお友達といらっしゃるのに今日は人間の方と一緒ですか。珍しいですね。」
エレンは平静を装っている俺に流し目を寄越すと、何食わぬ顔で社長に話しかけた。
「ああ。この後私の知り合いも来るんだよ。確かこれは前にも言ったな。」
「はい。魔物の方がいらっしゃるんですよね。でも、インキュバス化していない人間の方と魔物が二人。そのうちの桃里さんは旦那さんがいらっしゃるし…。」
エレンはぶつぶつとつぶやき何事か考えている素振りだったが、急に何かを思いついたように俺たち二人を見ると華やかな笑顔を見せた。
「あ〜っ!?もしかして君は今日魔物娘さんとのお見合いに来たの!?そうなんだ…。」
「へ?いや…。とんでもない!お見合いだなんてそんな大げさな事じゃないよ。」
「でも似た様なものなんでしょ?そっか。おめでとう。これで君も魔物のお婿さんだね!」
からかうような口調ではやし立てるエレンに慌てる。冗談じゃない。まだ何も決まっていないし、きっと逃げ切って見せる…。正直自信はあまり無いのだが。
でも俺に対しエレンは明らかに距離を縮めてきている。とっても朗らかでにこやかな笑顔をずっと見せているし、時折体に触れてくる。そんな彼女を見ているのはとても心地良いのだが、いったいなぜだろう。
「ふ〜ん。でも残念だなあ…。なんか君の事気に入ったのに…。こんな事はあり得ないけど、もし相手の方に振られちゃったら声をかけてね。」
そう言うとエレンはどろりとした粘液で出来た手をそっと俺の頬に寄せた。少しひんやりとしてぷるんとしている感触は今まで知らなかったものだ。でも、決して不快ではない。暑い季節などは包まれていたらさぞ気持ち良いだろう。
「そうしたら私が君の事をお婿さんにもらってあげるからね。」
先ほど見たのと同じ、いやそれ以上に淫らで、そして切ない様な微笑みを浮かべるエレン。そんな彼女の流体で構成されている瞳を見つめると、俺は体が熱くなるような興奮を覚えてきた。なんでだろう。とっても可愛らしい。ああ、これはまずいかも…。
「おいエレン!いいかげんにしろ!」
その瞬間、桃里社長の声が響いた。俺ははっと目が覚めたようになる。エレンはきゃーっ。と冗談っぽく声を上げるとカウンターの方へ逃げて行った。そして小さく手を振り小悪魔っぽく微笑むと、その奥へと去って行った。
「森宮君大丈夫か?」
「あ…。はい。大丈夫です。何ともないです。」
「全くしょうがない奴だ。でもまあ私も旦那と結ばれるまでにはそれなりの事はしてきているからな。あいつに文句も言えん。」
そう言って苦笑する社長に俺は言葉も無い。
「うーん…。有妃と君は間違いなくお似合いのはずなんだが、どうだ?もし有妃と会ってみて合わない様なら、エレンと付き合ってみると言うのは?私に話してくれればちゃんとエレンとは話をつけてやるから。あいつもあんなだが、なかなかいい奴なんだぞ。」
「はあ。そうですか…。」
冗談とも本気ともつかない提案に俺は当惑してため息をついた。そんな姿を見た社長は面白そうにアハハと笑うと一転して真顔になる。
「だが、森宮君よ。私だって社内で独身男性が君しかいないという理由だけで、有妃と会わせようとする訳じゃない
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