石造りの部屋の中。湯気に白み、淡い光を放つ小瓶が薄く照らし出す空間で、一人の女性が湯あみを行なっていた。
重い鎧を脱いだ体は色白で、薄暗い室内にぼんやりとその曲線美を映している。下腹部までで見ればすらりとした麗しい女体に見えるが、しかしその下半身は鈍色をした甲虫のようで、両の手にはそれぞれ巨大な鋏と盾が備わっている。
右手の鋏にべっとりとついた血を洗い流しつつ、彼女シルビアは、人の脚のような前脚で抱きかかえた子供に視線を落とし、まじまじとその体躯を眺めていた。病的に白い身体には擦り傷や切傷があちらこちらについており、上から下まで泥で汚れてしまっている。
生傷の一つを前脚の先でなぞってみる。肌は柔らかく暖かい、しかしどこか違和感がある。切れ込みのような傷には血も赤みも見られず、その周りだけ肌が硬くなっている。まるで石材に生じた浅い亀裂の様な傷に、彼女はどう手当てしてやったものかと困惑していた。
沸かした湯を桶に汲み、水を混ぜ人肌に冷ますと、抱きかかえている彼の身体へとそっとかけ流した。綿で擦り土や泥水を落としてやると、再びぬるま湯で汚れを濯ぐ。
有るべきものが無く、のっぺりとした質感の身体は洗うには都合が良く、こびり付いた泥も容易に拭い落とせた。
髪から順に下へと進み、特に汚れた足の裏まで、順に洗っては流しを何度も繰り返し、汚れをすっかり落とし終えると、乾いた布で丁寧に水気を拭いとった。
髪と尻尾は軽く水気を取ったのちに布で巻いてやり、自身の複雑な身体についた水気もくまなくふき取ると、換気窓の鎧戸を開き、月明かり射し込む浴室を後にした。
古びた木製の屋内、板張りの床はシルビアが歩くたびにカツカツと音を立て、その度に彼女の胸が上下に揺れる。木箱や樽が詰み重なった空間を抜け、階段へたどり着くと、二階へと上がった。
二階は奥に見える寝室と台所以外に部屋らしきものはなく、それ全体が大きな居間となっている。暖炉や向かい合って置かれた長椅子等、倉庫の様だった下の階よりは生活感が感じられる。
シルビアは抱きかかえていた彼を長椅子へと寝かせ、向かいに腰かけている女性、マンティスのフェルカに目配せをすると、自身は上の階へと上がっていた。
彼女はシルビアを視線で見送ると、手元に置いていた布袋を掴み上げ、立ち上がった。
フェルカは長椅子に寝かせられた彼の前で片膝をつくと、真剣な眼差しで傷口を注視する。しかしかすかに眉尻が下がり、困りはてた様子だった。
三階に上がっていたシルビアが階段を下りてきた。その前脚に衣類と毛布を掛け、裸だった身体には簡素な薄手の服を身に纏っている。どうしたものかと固まるフェルカの脇に歩み寄ると、尋ねるように小首を傾げた。
「これ、傷口じゃない…。」
指を傷口に当て、穿るように指を何度か曲げる。ヒビ状の傷口は広がる事も無く、一切形を変えず保たれている。横で見ていたシルビアも頷いて見せた。
フェルカは一応というように酒で消毒を行った後、瓶から小出しにした薬を亀裂に塗り込み、揉み解した薬草を貼り付け、上から包帯を巻きつけて葉を固定した。
「効くと思う…?」
処置を終えたフェルカが問うもシルビアは答えず、代わりにと言うように真新しい衣服と毛布を手渡した。その顔にはソルジャービートルらしからぬ優しい笑みが浮かんでいる。
フェルカは黙ってをそれを受け取ると長椅子の隅に置き、羊毛で編まれた上衣を手に取り、彼へと向き直った。
フェルカが服を着せようと彼を抱き起こしたとき、下の階から扉を開ける音が響いた。しばらくとせず階を上がってきたのは、ずぶ濡れになったワーキャットだった。
「あひぃ〜…今日は中腹近くまで潜ってやったのニャ〜♪全身全霊ドロドロニャンッ
#9829;浅い所の触手に比べて責めが、もうっ!もうっ!ねちっこい!ねちっこくて丁寧!すっごい!すっごくすっごい!!にゃひ、にゃひひひ……
#9829;」
惚けた様子でふらふらと階段を登りきったワーキャットが、腰を庇った千鳥足で居間へと入ってきた。脚を滴る液体が一歩進むごとに床板に染みを作り、生ぐさい臭いを周囲にまき散らす。
フェルカとシルビアの二人はそれに振りむくと、シルビアは彼女が垂れ流す液と床の染みに、微笑み絶やさぬまま僅かに眉をひそめた。
「おかえりなさい。」
「たっだいまーッ♪この時期特有のムラムラがドロドロとヌルヌルでスッキリ!触手健康法?これ流行るニャ〜♪というかもう流行ってるにゃ〜♪淑女の味方テンタクルにゃ〜
#9829;」
フェルカの声に元気よく答え、聞いてもいない感想を熱弁する。
汗と愛液とで雨の中歩いて来たような状態の彼女が、無口な二人に見守られる中暖炉の方へと進む。じぐざぐな痕跡を残しつつ長椅子にたどり着きもたれ掛か
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