ダークプリーストのブラザーコンプレックス

「ユー君〜、聞いてますかぁ…起きてください〜」

眠りに落ちていた僕の耳にとても静かで温かい声が聞こえる。慣れ親しんだ女性の声はどことなく困ったような響きをしていた。寝ぼけた意識のままぼんやりと目を開けると、紫色の瞳が僕をじっと見つめていた。

「あ…ユー君〜やっと起きましたねぇ〜。もう、相変わらずお寝坊さんなんですから」

目の前の女性が口元に手を当てて控えめに笑っている。彼女が笑う度に、長い銀髪がサラサラと揺れていた。

「あれ…義姉さん…?」
「そうですよ〜。ユー君のかわいいお姉さんですよ〜」

リディア義姉さんが無邪気に笑う。年上とは思えないとても可愛らしい笑顔に、僕を思わず見ほれてしまう。それがとても気恥ずかしくて、甘えるように顔をすり寄せてくる義姉さんを押しのけて体を起こした。
毛布の中で義姉さんが「いやぁん♪」と甘い声を漏らすのを耳にしながら大きく体を伸ばす。名残惜しそうに体にまとわりついていた眠気が薄れていき、曖昧だった『僕』という感覚が、次第に『ユーリ』という個性を目覚めさせていく。

「義姉さん、今何時?」
「えーっとですね。ついさっき、11時になったぐらいですねぇ」
「あー…ごめん…寝すぎた…ご飯まだ食べてないよね」

『家族の団欒は明るい朝食から。朝食は家族が揃って食べるべし』

それが我が家の家訓であり、義父さんが生前ことある度に口をすっぱくして繰り返していた事でもあった。僕も義姉さんもそれを今でも律儀に守って、互いが起きるまで朝食を取らないようにしている。だから僕が寝過ごしたという事は、義姉さんはまだ朝食を食べていないという事になる。
しかし義姉さんは柔らかい微笑を湛えたまま、首を横に振った。

「いいんですよぉ。おかげで今日はずーっと、ユー君のかわいい寝顔が見れましたからぁ」
「…今度からきちんと起こしてくれると助かります」
「ぇ〜。それじゃあ、お姉さんつまんないですよぉ〜」

義姉さんが毛布に包まったまま、不満そうに身をよじらせる。義姉さんが動く度、細くしなやかだけど女性らしい丸みを帯びたボディラインに沿って、毛布がその形を変えていく。
……ん?

「ていうかなんで義姉さん同じベッドで寝てるの?」
「それはですねぇ…ユー君のかわいい寝顔を見てたらですねぇ。なんかお姉さんも一緒に寝たくなっちゃって…だから添い寝をしちゃいました〜」
「…出来ればもうしないでください。お願いします」
「ぶ〜ぶ〜。今日のユー君かわいくないです〜。ユー君が反抗期でお姉さんかなしいのです」
「もういいから、ほらっ…早く起きて。顔洗ってきたらご飯食べるから」
「はぁ〜い」

義姉さんは不服そうな態度を隠そうともせずベッドから体を起こした。義姉さんの体にまとわりついていた毛布が肌蹴け、白く透き通った上半身が僕の視界を埋め尽くす。わずかに寝汗が浮かぶ肌は上気したように少し赤みを帯びていて、それがとても艶かしい。首と臍の中間に位置する二つの膨らみは、義姉さんが息を吸うのに合わせてわずかに上下を繰り返していた。

「って、なんで義姉さんハダカなの!?」
「ユー君の人肌で暖めてもらおうと思ってぇ〜」
「いま夏だよ! 暑いでしょ!」
「だからぁ、暑くないようにハダカになったんですよぉ〜。それにこれならぁ、服が汗で汚れる心配もないですしぃ」

口を尖らせる義姉さんの尻尾が毛布の中で不満そうに揺れている。
そう、義姉さんは人間ではない。
サキュバスの特徴である頭角とお尻から伸びる長い尻尾。腰の辺りから生える短く黒い羽根。そしてエルフみたいに尖った耳。義姉さんは人間の父親とダークプリーストの母親の間に生まれた、れっきとした魔物娘だった。

「僕が寝てる間に何してるの!」
「ナニもしてないですよぉ〜。ほんとですよぉ〜」
「さりげなくいかがわしい言い方しないで! 仮にも聖職者でしょう!」
「お姉さんは堕落神様に仕えるダークプリーストですから〜。平気です〜」
「そういう問題じゃないの! ああ、もういいから! 僕、顔洗ってくるから! それまでに服着ておいてよ!」

それだけ言い残して僕はすばやく部屋を後にした。荒々しく自分の部屋のドアを閉めながら、僕は大きくため息をついた。

…勃ってたの…バレてないよね…。

いや、でもこれは別にやましいものじゃないから。義姉さんに欲情したとかそういうんじゃないから。朝立ちっていう立派な生理現象だから。だから別に義姉さんのハダカを見たからって動揺してるわけないし、ずっと一緒に寝てたせいで服から義姉さん甘い匂いがするとかそんなことどうでもいいし、ましてや義姉さんの大きな胸に顔をうずめたいとか思ってもいないし――

「って、僕は誰に言い訳しようとしてるんだ…」

大きく深呼吸するように強引に息を整えながら、僕は洗面所へ
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