俺は懐かしい夢を見ていた.だがそれは二度と見たくはなかった光景だった.
俺は戦っていた.右手の剣で正面にいた敵の喉を斬りつけ,そこから血が噴き出るのを横目に見ながら別の敵と斬り結んでいた.取り囲むように敵がいるせいで俺には休む暇もなかった.戦っていた仲間はすでに撤退したのだろう.残った敵は蟻の様に群がってきた.俺は壁の様に迫ってきた敵を迎え撃つように双剣を持って走り出した.
――どのくらい経っただろう.先ほどまでの喧騒が嘘の様に辺りは静まり返っていた.
時刻は黄昏時,夕日に照らされた荒野で,所々に小さな山――いや,山のように積み重なった死体だった.
俺はその山の頂上にいた.纏う衣服は返り血を浴びたせいか,赤く染まり,元の色は判別できない.だらんと下げた両手に持った剣からはいまだ血が滴っていた.俺はただ一人,空を見上げるように死体の丘に佇んでいた.
「む?やっと起きたか.」
夢から覚めて上半身を起こした俺を待っていたのは特徴的な黒い犬耳がピコピコと動かしているライラだった.俺は体の各部に包帯を巻かれ,ベッドに寝かされていたようだ.特に両腕にはかなり巻かれている.窓を見ると日が暮れているようだった.
「俺はどのくらい寝ていた?」
「……大体一日くらいだ.」
(あれを具現化したにしては眠っていた時間は短かったようだが…)
そんなことを考えている俺をしり目にライラが俺の背後に回り,そして……
ゴンッ!!
「っ!?ライラ,何をする!」
「このぐらいやらなければわからんだろう!」
そう言うライラは尻尾を上にピーンと立て,目元にしわを寄せていた.
何に対してかはわからなかったが間違いなく怒っているようだ.
「いったいお前は何を怒っている?」
「何も理解してないのか!?お前は死にかけたんだぞ!」
「だろうな.それがどうした?」
ゴンッ!!
今度は頭に拳ではなく,錫杖が降ってきた.あまり体験したことがない痛みが体を走る.
「次そんなこと言えば,本気で殴るぞ.」
「仕方ないだろう.それしか方法がなかったからな.」
「それでも!お前は自分のことを軽視しすぎだ!なぜそうも自分を蔑ろにする!」
「……理由などない.ただ理不尽に人が殺されているのが我慢ならないだけだ.それを防ぐことができるなら俺の身などいくらでもくれてやる.」
そう言うとまたライラは錫杖を振り上げる.また殴るのだろうと思ったのだが,違った.
「…馬鹿者だ!…お前はとんでもない大馬鹿者だ…!」
ライラは錫杖を離し,そのまま正面から首に両腕を巻きつけるように抱きついてきた.
直接見ることはできないが,彼女の声には嗚咽が混じっていた.
「なぜライラが泣く?」
「…やはりお前は大馬鹿者だ.お前が死んだ後…残された者たちのことを考えたことがあるか!
…残された私はどうすればいい?」
「……」
「…馬鹿者が.…ヒック,馬鹿者ぉ…」
俺は何も答えられず,ライラが俺に抱きついて泣くのをただ見続けていた.
「落ち着いたか?」
「……みっともない姿を見せてしまったな….」
泣き続けたライラが落ち着くのを待って,声をかける.
少し体を離すと彼女はすねているような顔をしていた.それを見て俺は笑う.
「わ,笑うことはないではないか!」
「ククッ……すまん,すまん.だがそんな顔をしているのが悪い….」
「……からかっているのか?」
「そんなつもりはないが,可愛かったぞ.」
「か,可愛いだと!?」
今度はからかうように言うとライラは顔を真っ赤にして顔を背ける.しかし彼女の背後に見える尻尾は左右に勢いよく振られていることから,どうやら喜んでいるようだ.
「……抜け駆けはいけないな,ライラ….」
いつの間にか開いていた扉の方から声がした.扉の方を見ると壁に寄り掛かるように腕を組んでこっちを見ているレミリアがいた.ライラの機嫌がよくなったと思ったら,今度はレミリアの機嫌が悪いようだ.
「交代の時間になっても呼びに来ないと思ったら,抜け駆けをしているとは…….」
「…い,いや.これは…その…ち,違うんだ…….」
「ほう….では何が違うのか私たちの前で説明してもらおうか……(ガシッ).」
「……ちょっと!…待ってぇ!…(ズルズル).」
「ああ,そうだ.そろそろ夕食ができるからアキラは呼びに来るまでこの部屋で待っててくれ.あと,聞きたいことが山ほどあるから覚悟しておいてくれ.」
「……アキラ〜…助けてぇ!……いやぁぁぁぁぁ…(ズルズル)」
レミリアは一気にまくしたてるとライラの襟首を掴んで連れ去られていく.ライラも逃げようとしてじたばたもがいているが,相手はデュラハン…逃げれるわけがなかった.
結果,なす術もなく連れ去られていくライラを俺は呆然と見送っていた.
「で?いったい何をされた?」
「…
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