猫の後を追い、公園に着く。
中央に美しい噴水が設けられ、四方を木々が覆う憩いの場。
日は少し傾き始め、空が若干紅に染まりつつあった。
それなりに広いその場所には、仲睦まじい様子の魔物の夫婦が複数組いた。
今まで見てきた魔物と似た方もいれば、全く見たこともない方もいて、その種族の多さに少し驚く。
そんな公園の片隅にあるベンチに座ると、シェリーが私の膝に頬擦りをしだす。
あまりにも自然に動くものだから、彼女に膝枕をする形になっているのだと気づくのに、時間がかかった。
「シェリー?」
「どうしたんだいアリス?」
膝の上の猫は何もないかのように会話を続けようとする。
「えっと、この後の話をしてくれるんじゃなかったの?」
「街に着いたらもう一度なでてくれる約束だっただろう?」
そう言われ、そんな約束をしたことを思い出す。
「それに、私が言えばいつでもなでてくれるって、君は言ってくれたよ?」
うん、それも確かに言った。…わかったからそんな目で見つめないで。
待ちきれないといった表情でこちらを見つめる猫の顎をさする。
見た目はほとんど人間なのに、こんなことで嬉しがるのが少し可笑しかった。
「ねえアリス、耳もなでてほしいな」
「はいはい」
サラサラとした髪をかき分けつつ猫の耳をゆっくりなでる。
シェリーをなでるたび、お屋敷でこっそり飼っていた黒いあの子を思い出す。
どこからか迷い込んできた、ひどく傷ついた小さい躰。
随分と時間がかかったけど、懐いてくれてからは私室でずっと一緒だった。
「アリス、どうしたの?」
耳をなでる手が止まっていたのか、シェリーが少し不思議そうにこちらを見る。
「ううん、前に話した猫のことを思い出してただけ」
「にゃふ…、私のこと見てくれなきゃイヤ」
そう言うと、シェリーは私の膝に頭をぐりぐりとこすりつけた。
「またやきもち?相手はただの猫なのよ?」
「アリスの猫は私だけなんだ。ほかの猫なんていらないよ」
「ずいぶんと嫉妬深いこと」
そうしてしばらくぐりぐりしていた彼女は、再び顔をこちらに向けた。
その猫の手が、私の頬に添えられる。
「ごめんねアリス」
「ごめんねって、なにが?」
いきなりどうしたというのだろうか。彼女は、一体何に対して謝っているのだろう。
思い返しても森での喧嘩くらいしか思い浮かばないし、その件はお互い悪いということで終わったはずだ。
「君は、しばらくお屋敷には帰れないんだ」
唐突に告げられる受け入れがたい話。
この街に来て女王様に会えば、元の世界に帰れるのではなかったのか。
「シェリー、どういうこと?だって、女王様に会えば帰れるって」
「アリス、どうか落ち着いてほしいな」
彼女の手が頬をさすり、ふんわりと甘い匂いが鼻をくすぐった。
どこか安心できる、私の好きな猫の匂い。
「あのね、その女王に会うのが大変なんだ」
「大変って?」
「よく考えてみてアリス。いきなり女王に会いたいって行って、すぐに会えると思うかい?」
「それは…」
言われてみれば当たり前のことだ。
この国の住人でもない私が、いきなりお城に行って女王様に会わせろと言ったところで、普通会わせてなんてくれない。
むしろそんなことしてしまったら、どんな目にあってもおかしくない。
この国のことだから首をはねて処刑するなんてことはないだろうけど。
「そっか、いきなり行っても無理よね」
「うん。だからね、オテツヅキっていうのが必要みたいなんだ」
オテツヅキ…、お手続き?
不思議の国を名乗るくせに変なところで常識的だけど、女王様に何かあったら大変だ。
謁見するためにそういうものがあるのは当然だろう。
むしろ、会える方法があるだけでもありがたいと思わなければならない。
「それってどうすればいいの?」
「アリスは気にしなくていいよ。私に任せて」
「でも…」
「トランプも言ってただろう、ただの人間の君はこの街では珍しいんだ」
「さすがに女王に会うときはお城に入るしかないけど、なるべく近づかないほうがいいよ」
「一応、理由を聞いていい?」
私の問いかけに猫は言葉を返さなかったが、代わりにニヤニヤとした笑顔を浮かべた。
この国を治めているのだから、まあそういうことよね。
「だからね、今すぐお屋敷に帰るのは無理なんだ」
「うーん、仕方ない、かあ」
「ごめんね」
「ううん。シェリーが謝ることじゃないわ」
今すぐに女王様に会うことができないのは納得した。
じゃあ問題は、いつになったら会えるのかということ。
「女王様に会うのにどれくらいかかりそうなの?」
「アリス達の時間で言うなら2、3か月ってところかなあ」
「うう、結構かかるのね…」
私はこの国に迷い込
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