シェリーに愛してもらったあの夜以降、ただ彼女と情事に耽っていた。
互いに起きてもう一度、また疲れて寝て、起きてからもう一度と発情期の獣のように何度も交わった。
シェリーのことが好きだと伝えたくて、私を受け入れてくれる感謝を伝えたくて、結局、猫の誘いに流されてしまった。
…まだ恥ずかしさがあるから自分から素直に求めることができない、そんな私の心は、シェリーにとっくに見透かされていたんだろうな。
とはいえ、流石に疲れはあったし今後のことを考える必要もあったから、今日はそういうことはしないと決めた。
ソファーに座り、ローテーブルの上の紅茶を一口飲む。窓から陽射しが入り込む暖かな部屋がとても心地いい。
こんな平穏なひと時を過ごすことになるなんて、この国に初めて来たときは思わなかった。
もっともシェリーはもっと続けたそうにしていたから、代わりに彼女のお願いを聞いてあげることになったけど。
そんな私の猫はというと…
「ん〜、もっと右ぃ」
「ここ?」
「あっ、あっ、そこぉ」
私の膝の上で、耳をなでられご満悦だ。
「アリスアリスぅ、喉もさすってぇ」
膝に頬をぐりぐりと擦り付ける彼女の喉をなでると、ゴロゴロと気持ちよさそうな音がした。
「アリスになでてもらうのとっても気持ちいい…」
「喜んでくれるのは嬉しいけど、そんなにいいの?」
「アリスの匂いをいっぱい感じられるし、力加減が絶妙なんだよぉ」
「にゃふぅ、つぎはおなかぁ。ね、アリスぅ」
「はいはい」
「にゃぁぁ、んぅ、これもすきぃ」
ほどよく柔らかなお腹をさすると、シェリーが安心しきっただらしない顔になった。
公園で見せた以上にふにゃふにゃしていて、つい可笑しくて笑ってしまった。
このまま猫を愛でていたい気持ちはあったけど、そろそろ外に出なければいけない。
今の私だからこそ、したいことがあった。
「ねえシェリー」
「なぁにぃ、アリスぅ」
「私、城下町にいきたいな」
「…城下町?」
私の言葉にシェリーが耳をぴくぴくと動かし、ちょっとだけ不思議そうな顔をする。
「うん。この部屋でこうして過ごすのもいいけど、ずっとここにいるわけにもいかないから」
「そうかなあ、別に今のままでもいいと思うけどね?ここならアリスと暮らすのに何にも困らないよ?」
「ブレッドケースを開ければいくらでも食べ物は出てくるし、ちょっとしたお菓子が欲しいなら飴が降ってくる」
「紅茶はいえば帽子屋がくれるし、果物なら私がとってくるよ?」
「お水は川まで行けばいっぱいあるしね」
「お洋服だって、私が用意したのあるじゃない」
実際シェリーの言うように、ただ日常を過ごすだけならここは何の不便もなかった。
飲食には事欠かず、必要最低限の衣類や布類はそろってる。
暑くも寒くもなければ、夜に部屋が暗くなり、不便ということもない。
でも、最後の一言だけは素直に賛成できなかった。
だってそれは、シェリーの感性で選ばれたものであって、つまり…
「あれは洋服じゃないと思う。少なくとも、私にはちょっと…」
「にゃふ…、せっかくアリスにぴったりのメイド服を用意したのにな」
「あんな胸元と背中が開いてスカートが短いのはメイド服とは言いません!」
「そうかなあ?アリスが着てもとってもえっちでかわいいと思うよ?」
「メイド服にそんな要素はいりません!!下着だってすごいものだし!!」
シェリーの選んだ洋服類は全てきわどいものだった。
シェリー自身がかなり煽情的な恰好をしていて、そんな彼女が選んだものだからそこはわかるけど、到底私が着れるようなものじゃない。
今の格好だって、あのお屋敷で渡されたメイド服だ。
「というより、なんで全部女ものなの?」
「…だって、私がお洋服を用意した時は、アリス、自分のこと女の子だと思ってたから」
「あっ」
ほんの少しだけシェリーが口を尖らせるのを見て、自分の迂闊さに少し呆れてしまった。
確かに、シェリーがこの部屋を用意すると言った時に、私はまだ自分の体に気が付いていなかった。
正確には、無意識に目を背けていた。
そんな状況なら、形は置いておくとして、女物を選ぶのは自然なことだよね。
「ご、ごめんなさい。そう、だよね」
「ちなみにアリスはどっちがいいの?男の子のお洋服?女の子のお洋服?」
「う…、えっと…」
シェリーの問いかけに答えが詰まってしまう。
自分の体は男性だ。自分が男だってこともわかってる。
でも、見目だけなら自分は女で、似合う似合わないで言ってしまうと、私には男物の洋服が似合うとは思えなかった。
なによりアリシアとして過ごしてきたのだ。いきなり男としてふるまおうとしてもどうしたらいいかわからない。
だって、ずっとこうして生きてきた。今更すべて否
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