教会に住むサキュバスのお手伝いさん

過剰な快楽に顔を歪める男
泣き叫び命乞いをする子供
廃人と化し虚空を見る女
そしてそれらを喰らう、私

そこには愛情などひと欠片もなく、ただ捕食者が餌を貪るだけの関係
理性を磨り潰し、性の快楽を叩き込み、生殺与奪の一切を掌握しながら、文字通り搾り取る

楽しい、愉しい
もっと、もっと欲しい
苦痛も快楽も苦悶も愉悦も、全部、全部

人間の都合など知らない、理性や尊厳など私が押し潰す
ただあなた達餌は無慈悲に消費されていればいいの

ああ、あなたのその顔、とーっても素敵よ?
気に入ったから、骨の髄まで貪りつくしてあげる
だから、あなたも、





殺してあげるわ









また、昔の夢を見た
あの日以降ほぼ毎日、寝ても覚めても悪夢ばかりが思い起こされる
サキュバスとして暴虐の限りを尽くした記憶が、今になって牙をむく
魔物の特性によりその解釈に差異はあれど、代替わり後の魔物に共通する本能

「人に友好的であれ」

人を傷つけることは極力避けよ、殺すなどもってのほか
人と魔物はともに愛し合うべきなのだ

その本能が私を苦しめる

かつてはこんなこと思わなかったのに、私は一体どうしてしまったのだろう
今の人に抱くこの感情は、それによる後悔は、絶望は、現魔王に与えられた作り物ではないのか

本当の私は一体どこにあるの?

いつまで罪悪感に苛まれるのか
いつまでこの苦しみが続くのだろう

魔王の代替わり直後のここ数年、まともに生きていけなくなった私は、人間の住処を離れ、森の奥深くで暮らしている
暮らしているといってもただ死にぞこなっているだけ
食事もせず、水もろくに取らず、ただ木の枝に腰掛け膝を抱えて眠るだけ
ただ、そこに居るだけ

それでもまだ死んでいないのは、かつて豊富に蓄えた魔力がぎりぎり尽きていないから
時折、森に住む魔物が心配して私に食料をくれようとするけど、いい迷惑だわ

私は、このまま朽ちたいの

鬱屈とした思いを抱え、また私は眠りにつこうとする
次こそ永遠に目覚めぬことを祈りながら









「あ、あの!大丈夫ですか!ご気分がすぐれないように見えますが」

またどこかのお節介な魔物が来たのか、眠りを邪魔される
鈴を転がすような綺麗な声だ、魅了の声を持つラミア族だろうか

もうほおっておいてと何度言えば…、え?

木の下に居たのは魔物ではなく、小柄な人間の若い女だった
どうして?なぜこんな森の奥深くに?

服装から察するに、どこかの教会のシスターだろうか
慎ましながら、女性らしい丸みを帯びた体つき
あどけない、でも少女というには失礼な大人の顔立ち
宝石のようなグレーの瞳
そして、ホワイトブロンドの美しいセミロングの髪

…私の知っている修道服は本来髪は出さないはずだけど、宗派の違いだろうか?

いや、そんなことより、





いま、わたしのめのまえにいるのは、にんげんのめすだ





飢餓状態の魔物の本能が目覚める
精を食らえとうるさいほどにわめき叫ぶ
その本能は、一瞬にして、私の理性を塗りつぶした

私は体が限界を迎えているにも関わらず、彼女に飛び掛かり、押し倒す
可愛らしい悲鳴を上げる口を強引に手でふさぐ
恐怖に歪む顔、見開かれる瞳、流れる涙
自分がこの後どうなるか、流石にわかってるみたいね

ああ、貴女のその顔、とーっても素敵よ?
気に入ったから、骨の髄まで貪りつくしてあげる
だから、貴女も、







唐突に、吐き気が催される







それと共に、心臓が貫かれるような痛みが全身に広がる
耐え難い嫌悪感が、禁忌へ触れかける罪悪感が、体を駆け巡る
頭痛がする、気持ち悪い、気持ち悪い、気持ち悪い!!!!

どうにか体を動かし彼女の上から後ろに飛びのくと、私は嘔吐しながら地面へと頽れた

意識を失う最後に見た光景は、襲ったはずのシスターがこちらに駆けてくる姿だった








目を覚ましたとき、まず目に飛び込んだのは知らない木目の天井だった
どうやらあの後、どこかの部屋に連れてこられたらしい
体を起こし辺りを見わたす
大きく明るいランタンが乗ったテーブルとイスに、小さなクローゼットだけがある質素な部屋だ

唐突に、控えめなノックの音が室内に響く
扉を開けたのはあの時のシスターだった

「あ、お目覚めになられたのですね!よかった、突然倒れてしまったので一体どうなされたのかと」

「あれからずっと目を覚ましませんでしたので心配だったんです。ああそうだ、ちょうど夕食を作っていたので今ご用意しますね?」

そう微笑むシスターはこっちの都合など構いもせず、自分の用件だけ告げるとさっさと部屋から出ていった
そして次に戻ってきた彼女の手にあったのは、パンと野菜のスープが乗ったトレイ
食事より、今は状況を把
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