「――王室直属兵の武器です。恐らくですが、アーサー王子の手の者によるリザードマンへの攻撃があったと思われます」
リチャードは耳を疑った。確かにアーサー王子は父王の生前からオズワルドと対立していたし、根も葉もない事だろうが、教団とも密接に繋がっていたと言う噂もあった。だが、こうまでして攻撃的になる理由が判らない。わざわざ大人しくしている魔物の群れを刺激して敵を増やすような事を好んでするものだろうか。それが出来るオズワルドはあくまで必要だから行うのである。そして必要ならば、傍目から見て過剰だと思われるほどに殺傷する事も厭わないだろうが、寝室に入る事を許されるほど信頼されたオズワルドが父王の柔和な政策の重要性を理解していない筈もない。でなければ毎年ドラゴンティース族の対策に頭を悩ませる必要は無い。
となると、リチャードは眠気が襲ってくるまでの間に、アーサー王子が何をしようとしているのかを考える事にした。
――オズワルドは必要が無ければ絶対に戦わない。戦費の問題もあるし、何より人的な損耗もある。
――ドラゴンティース族のボーイハントだって、実質的な被害が出ている訳じゃない。結果として2、3人が連れ去られたりもするけど、大体は合意の上だ。
――兄上が連れて行った兵士だけではドラゴンティース族と戦うのは困難、いや自殺行為だ。
「戦意を煽ろうとしている? でも何故? ……だめだ、情報が少なすぎる」
次の日、リチャードは兵士を集めて言った。
「これまでに結構時間を使っている。今日からはこれまでの3割増しの速度で進軍する。出来るか?」
兵士たちが心臓に手を当てて応える。流石はオズワルドが鍛えた兵士だ。とリチャードは感心した。
「行くぞ、これ以上兄上に時間を与えてやれない!」
「はっ!」
そして、急いだこともあって、件の巣穴跡に一行が到着したのは日が沈み切る前には到着する事が出来た。兵士を待機させ、陰から巣穴跡を伺うと、確かにリザードマンが既にこの巣穴跡を掘り起こしているのが見えた。様子を見るに、まだ掘り起こし切ってはいない様だ。
「……ここで攻撃を仕掛ければ間違いなく勝てます」
かなり体格の良い兵士だな、とリチャードは思った。騎馬であるリチャードと同等の背だ。少し乗り出せばその姿は見えるだろう。陰に押し込みながらリチャードは彼の発言を咎める。
「馬鹿な事を言うな」
「冗談ですが、やれ、と仰せならばやります。我々は、そう訓練を受けております。では接触しましょう」
蹄鉄の音を高らかに鳴らしながら、リチャードと兵士数人が巣穴跡に近づいたのを察知して、哨戒に立って居た粗末な装備に身を包んだリザードマン数人が、武器を抜いて威嚇する。
「我々に争うつもりはない。だが、ここは塞国王の命の下に封じられた地、何故これを開放しようとする」
塞国、正確にはオズワルドの家紋をあしらった旗を掲げている事から、騎士団、あるいはそれに類する存在だと見てとったらしく、一人のリザードマンが誰かを呼びに走り去っていった。にらみ合う事数分、彼女に伴われて一人のサラマンダーが姿を現したが、その様そうにリチャードは絶句した。
「殿下」
「わ、判っているが……」
左腕の肘から先は喪われ、右目の大きな傷が、その瞳を塞ぎ、そして何よりもその象徴たる尻尾の炎もやつれ、酷く憔悴した様が伺える。出立こそ凛としているが、その疲労の色を隠せてはいない。
「私がこの群れの長である“岩砕”エレンシアだ。ここが反魔物領である事は存じている、が……傷を癒せばここを出て、竜の尾まで行く、何卒、ご慈悲を希う」
「酷いものですね……恐らく夫を持っていたリザードマンもいるようですが、兄君一派はその夫を集中的に狙ったようです。インキュバス特有の“混ざった”気配がありません。さて、ここからが問題です、殿下の心情的には助けたいのは理解できますが、ここは塞国に最も近い巣穴跡です」
「見殺しにしろと?」
「そうは言っていませんが、事実上、そうなりますね」
「だけど……」
しかし、リチャードはそれ以上に、このサラマンダーが反魔物領と言った事が気に掛かった。そして、過度とも思える警戒の態度も。オズワルドも父王も反魔物を掲げた事は無い。勿論親魔物をも。
「待て、我が塞国は建国以来、中央への守りの要を務める国が一つ、小国と雖も教団、魔物双方に対して肩入れしたつもりはない」
その呑気とも取れる言葉に、血気盛んそうなリザードマンが何を世迷いごとを、と牙を剥くが、エレンシアに瞳だけで制される。
「我等はオズワルド閣下の命を受け、かつて埋め立てたドラゴンの巣穴を調査しに来たものであり、また討伐の命は受けておらぬ」
傍に控えた兵士が、これが証拠であると命令書
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