「ええい、まだエマニュエルは到着せんのか!? いや、そもそもだ――」
「――オズワルドが敵陣に突っ込めばこの戦争も終わるだろうが、何をもたもたしておるのだ!」
肥えて、禿げた男が、周囲のシスターに怒鳴り散らす。その動作と同時にじゃらじゃらと音を鳴らして悪趣味――豪奢な装飾が揺れる。
「いけませんよ、セブリアン大司教。彼を出撃させるためには、パーシヴァルの出動させることが最低でも必要です」
それを嗜めるように、眼鏡をかけた優男が柱の陰から現れる。正確には大司教の死角に居ただけなのだが、少なくとも大司教はそう取った。
「アルフォンソ、貴様もオズワルドに出陣するように言え! 第一セルバンテスも何をしておるのだ! ――この際、パーシヴァルを出すか……?」
品性と言う物は装飾品のみならず、態度にも如実に出るものだ、とアルフォンソは思った。セルバンテスの粛々とした態度を見ろ、異端とは言え、あの様に殉ずる様を。そしてこの醜悪な豚を見ろ。これが教団の実態だ。と叫びたくなった。
勿論清貧を貫き、信仰を弛むことなく捧げ、人々を導く、信徒のなんと報われぬことか、そう言った正しい者達ばかりが魔物の毒牙にかかって行く。こう言った腐敗の象徴こそ消して貰いたいとアルフォンソは心底願っている。恐らく、他にもこう言った願いを持つものは多いだろう。魔物達は華麗な程に無視していくが。
「パーシヴァルを出したが最後、塞国は教団の支配下になりません。彼はオズワルドと同じくセルバンテスの教え子です……オズワルドは厳密には違いますが」
「ぐぬぬぬ……」
――わめく事しか知らぬ豚が、この程度も判らないのか。パーシヴァルは出さないのではない、出せないのですよ。
――パーシヴァルを出してデルエラレベルの指揮官が投入されようものなら塞国の接収どころではない。それこそ文字通りの死闘にしかならない。勝とうが負けようが屍の山しか残らない。私は御免ですよ。
――まあ、だからと言って来ない理由にはならないでしょうが、聡明な彼女なら来ない事を選ぶでしょう。私ならそうします。藪をつついて蛇を出すどころか、竜を出すような真似はしたくありませんからね。
そんな、醒めた思考はおくびにも出さず、淡々と説得する。
「それよりも、勇者が来た時の事を考えましょう。全く動く気配のない者に期待するよりもヴァルキリーの加護を得た彼の力を信じて戦うのが一番です。精々エンジェル程度の加護しか得ていないパーシヴァルとは異なり、才覚の限界も見えない、と言う噂は大司教もお聞きになったでしょう」
「う、む。そうだったな。セルバンテスの時代はとうに終わったのだ。あの地で死――いや、その身の堕落を裁かれるが良い!」
――やはり、こいつは駄目ですね。セルバンテスも目の上の瘤ですが、貴方もそうなんですよ。
アルフォンソの言った噂は、事実ではない。そもそもの発端はアルフォンソがこの豚を確実に排除するためにでっち上げた嘘だ。ヴァルキリーが加護を与えているのは確かだが、その才覚は既に程が知れている。
――そもそもエマニュエル程度ではオズワルドを御せませんよ。あれは名誉や正義などと言う甘ったるい言葉では決して動きませんからね。
――彼が動くのは、国の危機、教団に備えられる状況、あるいは利益がある時だけです。
――とは言え不味いですね。塞国を接収しようとすると、オズワルドをどうにかして動かさないといけませんし、接収するとなればドラゴンティース族も黙ってはいないでしょう。彼女等は今の所、塞国が何をしたのか動く気配はないけれども、何時動き始めるか判らない、と言う意味では魔物軍よりも厄介ですね……ん?。
アルフォンソがふと思考のノイズに気が付くと、見慣れないシスターが、セブリアンに絡みつくように立って居た。その気配にアルフォンソの警戒心が、一気に高まる。だがセブリアンはアルフォンソのそれに気が付かないように、言い捨てた。
「アルフォンソ、ワシは暫く部屋にこもる。しっかりやっておけよ」
――またですか、貴様は何時まで若いつもりですか? 50にもなろう男が盛っている暇があったら、作戦の一つ……いや、そのまま干し殺されてくださいよ。
アルフォンソは聖職者らしからぬ、いや、聖職者だからこそなのか、その色情狂いっぷりに呆れたが、勿論表情には一切出さない。だが、その女の唇が、
――わ、か、っ、て、い、る、わ、よ。
と言う風に動いたのを見て、アルフォンソは動揺した。この女は何だ、少なくとも魔物では無い事だけは確かだ。だが、この言い様の無い、悪寒はなんだ。
――案の定と言うか、最悪ですね。
と、唇だけで返すと、その女はさらにこう言った。
――ええ、そうね。
どういう事だろうか、とアル
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