兄様が行動不能になってほぼ丸一日が経った。
今ではフェルシアと組手ができるぐらいにまでは回復しているみたいだ。
昨日は激しかった……と、同時に少しやりすぎたかなと。ちょっと反省。
「徒手空拳は……っ!苦手なんじゃなかったか?アルテア。」
「ま、苦手は苦手だがね。そこいらのチンピラに負けないぐらいは経験を積んでいるつもりだ。」
兄様は外見的に細身に見えるけれど、実際は結構鍛え上げた体をしている。
今もフェルシアのガードの上からでも確実にダメージを与えている筈だ。
しかし……
「ふんっ!」
「ぅおあ!?」
瞬間移動並の速さでの足払いを貰って兄様がひっくり返る。
やはり人間の反応速度を超えることはできないみたい。
尻餅をついている兄様にフェルシアが手を貸して立たせた。
本当ならば私も兄様と手合わせをしてみたいのだけれど……何分手加減が苦手なので下手をするともう一日休み……なんて事になりかねない。
結界の維持事態は苦にはならないものの、あまり長い間ここに留まることはオススメできないしね。
「やれやれ……お前にはいつまでたっても勝てる気がしないな。」
「それは困る。私としても是非打ち破ってもらいたいものだ。本気でな。」
各自がウォーミングアップを終える。
出発前の報告をミリアにすることに。
「ミリアー、聞こえとるかの?」
『はいは〜い、こちら本部。この時間に連絡してきたって事は作戦開始準備が整ったのかしら?』
「うむ、各自準備を終え、あとは突入するだけじゃ。」
『りょーかい。それじゃ、健闘を祈るわね。』
「うむ、それではの。」
通信を切り、辺りを見渡す。
全員が準備万端、士気も万全の状態だ。対して相手は命令通りにしか動かない、文字通り人形のみ。
「(……しかし、不振な点も無いわけではないよね。)」
以前兄様が持ち帰ったガーディアンのコアを調べていたのだが、どうにも不審な点が多すぎた。
魔力ではない物が詰められている結晶体。
小さな穴を開けてみると、そこから何かが漏れ出すように抜けていったのだ。
その時は慌てて穴を塞いでそれ以上の流出は防げたが、あれは一体何だったのだろうか。
さらに、極たまにだが結晶体自体が生きているように中の光が揺らめく事がある。
「……ファ、エルファ!」
「ふぉぉおおお!?」
兄様が肩を揺すって声をかけてくれていた。
考え事をしている最中に呼ばれたので思わず素っ頓狂な声を上げてしまった。恥ずかしい……。
「そろそろ出発するから結界を解いてくれ。隠蔽工作を忘れないようにな。」
「う、うむ。わかったのじゃ。」
野営の後は既に片付けられており、あとは結界を解くだけ。
残るのは下草が刈り取られている森だけという形になる。下草も一週間もあれば生えそろうと思う。
なるべく魔力を散らさないように結界を解くと、周囲から虫の鳴く声が一斉に聞こえてきた。
「うっし、行くか。手はず通り、エルファとニータは隠し通路を。フィーとチャルニ、メイは裏口を頼む。その間俺とミストは正面玄関で暴れてくる。それじゃ、解散だ。」
兄様が以前使っていた照明用のビットを伴いながら森の中を出ていく。
隠し通路の出口はこの森の中なので、私とニータは別行動だ。
「あ〜あ……どうせならアルと一緒に行きたかったなぁ。」
「文句を言うでない。それはわしも同じじゃ。」
ニータの案内で森の中を行く。私は照明用の魔法を使いながら彼女の後を付いていった。
しばらくするとニータが立ち止まり、地面から飛び出ている取っ手を掴んだ。
「そこにいると危ないと思うよ?」
「なんじゃt……ぬぉぉぉおおお!?」
彼女がそれを引っ張り上げると、私の足元が斜めに持ち上がる。無論、バランスを崩して転がり落ちた。
「ほら、遊んでないでさっさと行くよ。アルが例の宝石を手に入れられるかどうかはあたし達に懸かっているんだから。」
「ぬぅ……帰ったら覚えておれよ……。」
ぶつけたお尻をさすりながら彼女の後へと続く。
階段の底に広がる漆黒の闇の中に私達は踏み行った。
〜セント・ジオビア教会 隠し通路〜
通路の中で光を使うと向こうの方から丸見えになるので、暗視魔法に切り替える。
ニータはというとこの暗闇の中でもなんの障害もなくスイスイ進んでいる。
「あたし夜目は利く方なんだ。そうじゃないとシーフなんてやってられないしね。」
納得の理由だ。
しばらくすると複数の爆音が通路の奥から聞こえてきた。
恐らく兄様達が暴れだしたのだろう。こちらも追いつくために先を急ぐ。
「前方に敵1……例のガーディアンだよ。」
「うむ……少し待っておれ。」
闇に紛れて哨戒中のガーディアンへと近づいていく。
気づかれる前に鎌で胴体を一刀両断。コアごと切り裂いて機能を停止させる。
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