〜ギルド宿舎 アルテア自室〜
クロアとの飲み会の翌日。
あの後帰ってくるなりベッドに倒れこみ、そのまま爆睡してしまった。
幸い二日酔いになることは無かったが、水浴びもせずに寝てしまったので若干体中から汗の臭いがする。
「うへぇ……流石にこれはきついな。」
自分の匂いに顔を顰めつつ、独りごちて起き上がろうとするとTシャツの裾が引っ張られる感触がする。
その大元へ目を向けると……
「……何故にこいつがここにいるんだ。」
エルファが一緒のベッドに寝ており、シャツの裾を握りしめたまま眠っていた。
確かに今までこいつがベッドに潜り込んでくることは無いわけではなかったが、一人で潜り込んでくるのは初めてではなかろうか。
「お〜い、エルファ。こんな所で何して……」
そして、頬をペチペチと叩いて起こそうとした所でふと気づく。
エルファの頬に一筋の跡が残っている。
その跡は目元まで続いており……。
「…………」
「ふぁ……ん……ぁ……兄様ぁ……おはようなのじゃ♪」
一体こいつはどういうつもりでベッドへ潜り込んできたのだろうか。
「エルファ……お前泣いていたのか?」
「ん……?あ、こ、これはじゃな……えと」
慌ててごしごしと擦っているがそう簡単に落ちるわけもなく、跡は付いたままだった。
「お前、一体どうしたんだ?お前が泣くなんてよっぽどの事だろ?」
「な、なんでもないのじゃ!ちょっと怖い夢を見ただけで……見た……だけ……」
そう言っている側からボロボロと涙がこぼれ始める。
拭っても拭ってもこぼれ落ちてくる様は、見るに耐えなかった。
「あ、あれ……なんで、何でとま……ぅ……ぅぅぅ……」
「エル……」
いたたまれなくなり、彼女の小さな体を抱きしめる。
彼女は、まるで寒さに震えるように肩を震わせていた。
「に、にいさま……いま、そんなやさしくしちゃ……だめ……」
「いいから、泣いとけ。泣いてスッキリしとけば何があったか話せるだろ?」
俺がそう言い、抱きしめる力を強くすると彼女は火がついたように泣き出した。
まるで、今までこらえていた分を吐き出すように。
「少しは落ち着いたか?」
「あはは……ごめん。いっぱい泣いちゃった……」
暫くして、ぐずりながらも漸く泣き止んだエルファ。
心なしか口調も変わっている。
「それがお前の素か。」
「うん……口調だけでもそれっぽくしておかなきゃ軽く見られるから。私ってまだまだ若いし。」
彼女も彼女なりに苦労しているのだろう。
齢18で魔術師ギルドとサバトの長となり、その大所帯をまとめるために必死に母の真似をし、背伸びをしてそれらしく振舞おうとする。
彼女の重責はどれほどまでに重かったのだろうか。
「それで……何があった?いや、辛いなら話さなくてもいいが……」
「ううん、聞いて欲しいよ。私自身心に整理を付けたいし……」
彼女は目を瞑り二、三度深呼吸すると咄々と話し始めた。
ある所に、小さな幼い少女がいました。彼女の母は大魔術師とも呼ばれるほどの凄い魔法使いでした。彼女は、幼いながらにもいつか母と同じような大魔術師になるのだと夢見ていました。そんなある日です。
彼女の母親のもとに、一人の少年が連れてこられました。彼はいくつもの呪いにかけられ、苦しんでいました。
彼女の母親は、あっという間に少年に掛けられた呪いをいくつも外してしまいました。そんな母親を見て、彼女はさらに憧憬の念を募らせたのです。
しかし、母親ですら解けない呪いが少年にはまだあと一つかかっていたのです。
少女は彼のことを不憫に思いました。今はまだ何もできない女の子ですが、いつかは彼の呪いを解いてあげたいと思いました。
そして彼女は少年に約束したのです。いつか、その呪いを解いてあげると。
月日は流れ、少女の魔法の腕はメキメキと上達していきました。
幾つもの魔法や魔道具、呪術や薬などに精通し、魔術師ギルドやサバトの運営を母親から任せられるほどにまで成長しました。
しかし、少年の呪いを解く方法はいつまでたっても見つけられません。
見つけられたのは、とてつもなく大きな代償を背負わせる禁断の魔法しかありませんでした。
やがて少女にも好きな人ができ、その人を含めて色々な仲間たちと楽しく過ごしていました。
少年の事は彼女の頭の中から次第に薄れて行ってしまいました。
そんなある日、彼女はかつての少年の姿を目にしてしまったのです。
彼女は悩みました。彼の呪いを解く方法はあの禁断の魔法しか見つかっていません。
しかし、彼の呪いを解く方法はどんなに探しても見つかるものではありませんでした。
結局、彼女はその魔法の事を少年に伝えることにしました。
彼に会い、魔法の事が書かれた本を渡し、彼女は何度も何度も謝りました。
「ごめん
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