Act.4<Gun × Sword>


〜冒険者ギルド モイライ支部 ロビー〜

冒険者ギルドのロビーの隅のテーブル、そこがクロアとサラの定位置だ。
別に目立つのが嫌というわけではなく、彼らは表向きでは正式なギルドメンバーではないために堂々と人目に付く席に座れないというだけの話だ。
その定位置でクロアがテーブルに足を乗せて腕を組んで俯いていた。
正確な事を言うと、眠っていた。
隣ではサラが双剣の手入れをしている。行儀の悪いクロアを諌めるでもなく、彼ら独特のゆったりとした時間が流れている。

<お〜い、エルファ〜。

このギルドの漫才師がまた何かをやらかしたようだ。
いつもまとわりついているバフォメットの名前を呼んでいる。ちなみにその席はクロアからは見えていない。

<少しは反応してくれよ〜……寂しくて死んじゃうぞ?

声色から言ってどうやらケンカか何かでもしたのだろう。随分と下手に出ている。
男というのは相対的に立場が低く、ヘソを曲げた女性に対しては平謝りするしかない……とは誰の弁だっただろうか。
恐らくこの壁になっている観葉植物の向こう側ではペコペコと冒険者ギルドのエースが頭を下げているのだろう。そう考えると滑稽なものがあった。

<お兄ちゃん、少しは嫌がってもいいんだよ?
<あ〜……何か考え事をしているみたいだからそっとしておいてやってくれるか?多分これも無意識の行動だろうし。
<そう言いながら何やってんの!
<いってぇ!

どうやらいつもの情報屋が彼に対して何かしら制裁を加えたようだ。
ちなみに何をしていたかはここからではうかがい知ることができない。

<マスター、そろそろ依頼を受け始めないとまともな依頼が無くなってしまいますよ。
<そう、だな。流石に一日をこのまま棒に振る訳にもいかないか。

彼がクエストボードの前へと歩いてきた。
彼の得物である黒い銃(クロアの持っているものとはケタ違いに大きい物)を引っさげ、依頼を物色している。

「目先の利益を確保しないとやってられんか。」

そうぶつぶつと独り言をつぶやきながら、めぼしいものを見つけたのだろう。
一枚をはがしてカウンターへと持っていく。

「兵士の俺が言うのもアレだが……平和が一番ってな。」
『皮肉にしか聞こえませんね。』

受付嬢に印を押してもらうと、そのままギルドの外へと去っていった。
こちらはガーディアンやチャイルドの目撃情報が入るまでは動く事ができないため、情報が入るまでは待機である。
テーブルの上のコーヒーを一口すすり、ほっとため息をつくサラ。

「本当に、平和が一番だ。荒事を生業にする私が言うのも皮肉めいているがな。」

ゆったりと、ギルドのロビーに平和な時間が流れる。



時刻は昼過ぎ。
サラが買ってきた簡単な昼食を食べ終わり、コーヒーを呑みながらくつろいでいる時だった。
ギルドの扉が勢い良く開かれ、慌ただしく小さな足音が飛び込んできた。

<姐さん!
<来た?詳しく話して。

どうやら何時もの情報屋が新しい情報を仕入れてきたようだ。
それも、様子から見るにかなり重要度の高い情報。
その声にクロアがムクリと顔をもたげる。

「さて、仕事が入ったみたいだな。」

立ち上がって体を何度か逸らし、コキコキと背骨を伸ばす。
ヴァーダントを背中のホルダーに止めた頃には情報屋が近くまで来ていた。

「来たよ。ガーディアンが120体にチャイルド24人。クート村に向けて進軍中だって。旅の館が使えなくても馬を飛ばせば1刻で付くよ。」
「りょーかい……じゃ、行きますか。」

言動こそ気だるそうに見えるが、彼の瞳には燃え滾るような闘志が渦巻いている。
一人でも、一体でも多くチャイルドやガーディアンを始末することがアレクに近づく道だと捉えている節のあるクロアにとって、今回の大群は大幅な一歩と考えているのだろう。

「チャイルドがいるからサラは待機な。我を忘れてガキを犯したいって言うなら付いて来てもいいぜ?」
「ふざけていないで早く行け。犠牲は少なくできるならば少ないほうがいい。」

含み笑いを漏らしながら後ろ手に手を振ってギルドの出入口へと向かうクロア。
サラ自身彼に手を貸せないのは歯がゆいことこの上ないのだが、一度チャイルドに当てられたことのある彼女にとってそれはトラウマに近い。
以来、彼女はチャイルド絡みの件に関しては手を引いている。

ドアベルを鳴らしてクロアが出ていく。
それと同時に、観葉植物の向こう側から息を飲む気配がした。

「っ……!?」

いつもエースにくっついているバフォメットだった。
彼女がドアを開けたときには既にクロアの姿は居なくなっていた。

「……やはりか……やはり……クロア兄様なのか……?」

呆然とそうつぶやき、弾かれたようにギルドを飛び出していった。

「そう言えば……あいつの
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