第六話〜遅れてやってきたヒロインに出番はない〜

〜モイライ冒険者ギルド支部 ロビー〜

「……」
「いや、なんだ、許せ、アルテア」

「……」
「私がうっかり紹介を忘れて一時的にでも路頭に迷ったのは謝る。なんなら昼食を奢ってもいい」

「……」
「だから無視するのはやめてくれええええええ!」
「わかったから叫ぶなよ!うるさいよ!」
なぜこうなったし。



〜回想〜
ミリアさんの口添えにより、無事に冒険者ギルドに登録することができた。
彼女の旦那さんは、俺に対して物凄く感謝していたのをここに記しておく。
派手な格好の彼女とは対照的に冴えないおっさんだったな……。

俺はギルドのロビーでコーヒー(無料配布)を啜っていた。膝の上にはやはりというかなんというかアニスちゃん。
このコーヒーを飲み終わったら軽い仕事でもして当面の生活費でも稼ぐか〜と考えていたその時である。

施設の外から轟音が聞こえてくる。

『高速接近する生命反応1。迎撃しますか?』
「いや、いらないだろ。そこらじゅうに戦闘要員がいるギルドに単騎で殴りこみを掛けてくるバカがいたら話は別だろうがな」

雷が落ちるような音と共に扉を押し開けて入ってきたのは緑色のスケイルアーマーと同色の鱗に覆われた尻尾を持つ蜥蜴女ことフェルシア=グリーンその人だった。

「プーチン!ここに妙なジャケットを着て奇妙な鈍器を持った男が来なかったか!?」
「奇妙かどうかはともかく変わった格好の方ならそこに……あと私はプーチンではなくプリム……」
「いたああああああ!」
「最後まで聞いてくださいよ!ていうかフィーさん!いつになったら私の名前を覚えてくれるんですか!?」

君がモブキャラである限りこの先ずっとだろう。

「済まないアルテア!お前をギルドに紹介するのを忘れてしまった!」
「別にいい。もう済んだ事だ」
「私がうっかりしていたばかりに……本当にすまない!すぐに登録を」
「もう登録は済んだ」
「……へ?」

鳩が豆鉄砲を食らったような顔っていうのはこう言う状態を言うのだろうなぁ。

「もう登録は済んだ。この子の母親を助けたお礼に口添えしてもらった」
「この子……?」

視線を下げる彼女。というか気づいていなかったのか。

「ふぃーおねえちゃん、こんにちわ!」
「アニス嬢の母君というと……ミリア女史か!?」
「そういうこと」
「私がお前を探し回っている間に?」
「あぁ」
「支部長を助けた?」
「ちと手間取ったけどな」
「……」
「……」
〜回想ここまで〜



「すまない」
「いいよ」
頭を下げるフィー。

「お詫びはなんだってする!」
「いいよ」
さらに詰め寄ってくる。少し暑苦しい。

「なんなら嫁に行ってもいい!」
「いい……って危ねぇ!どさくさに紛れて何言ってるんだお前!?」
面倒臭がって同じ返事をしようとしたら引っ掛けだった。危ない危ない。
「ッチ」

舌打ちしましたよ?今舌打ちしましたよこの人!?

「む〜……」

フェルシアと話していると反比例するように機嫌の悪くなるアニスちゃん。何だって言うんだよもう……。

「とにかくこの話は終わり!紆余曲折はあったけど俺は食い扶持見つけたし、特にフィー……でいいか?を恨んでいるわけじゃないから。オーケー?」

「わかった……お前がそう言うならばそれで構わない」

彼女も納得したのか、この場はそれで解散となった。
フィーは次の仕事があると言ってギルドを出て行った。

「つかぬことをお聞きしますが……」
「なんだい受付君?」
「受付君て……この建物の玄関って外開きでしたよね?」

見てみるとドアの蝶番やら枠やらがものの見事に破壊されていた。

「あれは次の仕事から差っ引くしかないわね〜……」

のんびりと呟くミリアさんの言葉を聞きつつ、俺は帰ってきたフィーが天引きを告げられて絶望する様を頭に描き、それを哀れんでいた。

「もうこれでさんかいめなのに……」
常習犯か。



〜クエスト開始〜
―荷物運びを手伝って!―
『大量の納品依頼が来たっていうのに従業員の大半が風邪をこじらせたんだ。急な依頼ではあるけれど手伝って欲しい。
                                                   リーエル商会』

「今回受けるクエストは割と短期の部類に入りますね。最初に受けるクエストとしては丁度いいのではないでしょうか」
「なんでも屋みたいなもんだとは思っていたからいいんだが・・・。いきなり倉庫作業か」
「冒険者って何かと戦って稼ぎを出す人みたいに思われがちですが、こういう小さな仕事も冒険者の管轄です。蔑ろにはできませんよ」
「だな。んじゃ、行ってくる」
「がんばってくださいね〜」



〜リーエル商会 倉庫前〜
「あぁ、助かった。ウチの小僧が風邪でダウンして人手が
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