回想〜真昼と真夜中の双子〜


〜クロアの家〜

「う〜ん……」

僕はテーブルの上に広げられた革袋の中身を眺めて唸っていた。
置いてあるものは、金属製の筒、螺旋状の針金、手にフィットする形状の金属のグリップ、その他細かい部品がてんこ盛り。

「何なんだろ、これ。」

その内の一つの螺旋の針金を手にとって見る。
弾力が強く、途中で曲げて手を離すとブルブルと震える。
全部まとめて何かの部品なのだろうけれど、それがバラバラなために原型が全くと言っていいほど検討もつかない。

「またそれか……そんなに気になるのか?」
「あ……サラさん。」

余程集中していたのか、サラさんが小屋の中へ入ってきた事すら気付かなかった。
声をかけられてようやく気づく。

「私からしてみたらガラクタの山だがな。」
「でも……フラムさんが何も考えずにこれを渡したとは思えないんですよ。」

彼女はドワーフであれば直せるかもしれないと言っていた。
ならば、ドワーフに見せるのが一番手っ取り早いのだろうが……

「知り合い……いませんよねぇ。」
「あぁ、いないな。」

これでこのやり取りは何度目だろうか。
こんな複雑な物を取り扱ってくれるようなドワーフの知り合いなど、僕にもサラさんにもいなかった。

「やっぱり……探すしか無いんですかね?」
「だろうな。しかしどういう奴に頼んだものか……ドワーフならば誰でも飛びつきそうだがな。」

現にモイライに住んでいるドワーフに見せた所、ヨダレを垂らさんばかりに飛びついては来たものの、作業開始30分程度でギブアップしたほどの代物だ。
彼女達曰く、「これを作った奴は細工師じゃなく芸術家か何かなんじゃないか?」らしい。
それだけ構造が複雑なのだろう。

「どこかにこれを直せる人っていませんかねぇ……手先が器用でこういう複雑な構造の道具に精通しているような……」
「……それだ!」

僕がブツブツとつぶやいていると、耳元でサラさんが叫ぶ。思わずそのままの体勢で2センチほど浮き上がってしまった。

「いるじゃないか!そういう細かいことに精通した人々が!」

そう言うとサラさんは色々と旅支度を始めた。
一体どこへ行くつもりなのだろう。

「あの……サラさうぶぁ!」

声をかけようとして僕の服を顔に押し付けられる。
何とか引き剥がして彼女の方を見ると、既に支度が済んだ後だった。早い。

「ジパングだ。行くぞ、クロア。」



〜華の都 江戸崎〜

馬車と船を乗り継いで行くこと5日。
僕らはジパングの土を踏んでいた。かなりの部分が木造で造られている家屋がたくさんある。

「ふぅ……やはり旅の館が無いと時間がかかる物だな。」
「僕は倍疲れましたよ……トホホ……」

ナンパされても軽くあしらえるサラさんはまだいい。
僕はここに来るまでに顔を合わす魔物のお姉さん達(独身限定)から声をかけられ、それをなだめすかしながら何とかここまでやってきたのだ。
ネレイスに船から引きずり降ろされそうになったときは本当に終わったと思った。

「言っておくがここには冒険者ギルドが無い。ギルド宿舎が頼れない以上どこかで宿を取るか野宿しかない。外で寝たくなかったら死ぬ気で宿を探せ。」
「はぁ……願わくば宿の人が魔物じゃありませんように……。」

結局宿も妖狐が経営する宿だったので中居さんと女将さんに、食事、風呂、夜と連続して狙われる事になった。
なんとか誘惑を振り切る僕の鋼の精神に賞状を送りたいんだけど何て書いたらいいかな。よくがんばったで賞?そんな子供じゃあるまいし。
サラさん?焦る僕を見てニヤニヤ笑っていたよ。多分この間一本取りかけた事への仕返しなんだろうなぁ。



〜江戸崎 鍛冶屋通り〜

あちこちからトンテンカンテンとハンマーを振る音が聞こえてくる。
ここは江戸崎にある武器職人の職場街、通称鍛冶屋通り。
ここでは良質な砂鉄から作られる鋼鉄を使って様々な武器屋防具、農工具や日用品などを作っている工場が数多く存在している。
一部の製品は大陸へも輸出されているとか……。

「みつからんな。」
「見つかりませんねぇ。」

そんないい金属の匂いを嗅ぎつけてドワーフが店を出しているのではないか〜と考えてあちこち探しているのだけれど、見つからない。
通りに店を出しているのは大抵が人間、良くてサイクロプスあたりであり、ドワーフの工房は全く見つからない。
地元の人に聞いてみても知らないという。

「見当外れだったか……」
「もう少し探してみましょうよ。工房は逃げませんし、逃げないなら探すことも出来るはずですから。」

そうして僕らは再び鍛冶屋通りを徘徊する。
……探索が遅くなるのってサラさんが軒先に展示してある刀とかをじっくり見ているからだと思うんだけどな。



「サラさ〜ん……」
「う〜む……これは中々……
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