対戦車ライフルという武器がある。
文字通り鋼鉄の箱とも言うべき戦車に対して弾が通るほどの威力を持つ大口径ライフルだ。
銃弾初速は時速750km/s程度、有効射程は91メートル程度の物だが、その破壊力たるや筆舌に尽くし難い物がある。
そんな弾丸を生身で防ぐ事ができるような奴なんているわけがない。
そのはずだったんだけどなぁ……。
〜緑の集落〜
「ま、そんな所じゃの。」
エルファ殿がアルテアに関して知っている事を話し、それにラプラス殿が付け加える形で彼がどのような人物かを語ってくれた。
いやはやなんとも。異世界人には学者の卵が多いと聞くが、彼は傭兵……それもかなり様々な修羅場をくぐり抜けてきた猛者だという事がわかった。
多少感情の上下が激しい所はあるものの、よくぞここまで真っ直ぐに育ったものだ。
「普通ここまで強大な力を手にし、殺戮と破壊に塗れればそれこそその者は性根が歪んでしまうものだ。よく道を踏み外さなかったな……」
『マスターが全力を出して戦う根幹にあるのは仲間や自分にとって大切な人、また罪もなく、無力な人々を救う事にあります。世界平和の為や、大義の為に戦っていないという事が大きな要因でしょう。』
人という生き物は力を持てばそれをどこかへ振るってみたくなるものだ。
故に必要な分だけ、必要な力を、必要なだけ振るうという事が難しい。
彼は明確な意図を持っていた為に歪むことが無かったのだろう。
『尤も、ある意味ではマスターは既に歪んでしまっているのかもしれません。理不尽に人を傷つける者や、強大な力を持つにも関わらずそれを無闇に振るう相手に対しては全く容赦をしませんから。それこそ、命を軽視するまでに。』
「味方以外は全て敵……か。寂しい事だな。」
「うむ。敵を憎むばかりではいずれ全てが敵になってしまう。兄様にそれを教える事ができればよいのじゃが……」
2人で彼の行く末を案じていると、強烈な違和感に襲われた。
二人……?
彼の話であるのならば、当然フェルシアも参加するはず。
しかし、当のフェルシアは沈黙を保ったままだ。
彼女の方へ視線を向けると、座ったまま俯いてじっと動いていない。
さらに違和感が襲いかかってくる。
鎧を纏っているにも関わらず、肌寒い。
今は真夏、夜中だったとしてもそれなりに気温は高いはずだ。
しかし、鎧越しに感じる冷気は夏の夜の物ではない。
こんな気温は、ありえない。
違和感はまだまだ尽きない。
外が、異常に静まり返っている。
今が夜だったとしても、人が寝静まるにはまだ早い時間の筈だ。
つい先程まで夕焼けの空だったにも関わらず、外は真っ暗になっている。
話し込んでしまったとしても、この暗さは異常だ。
「アルテア、アルテア!起きろ、様子がおかしい!」
私が肩に手を当てて揺すると、アルテアはすぐに目を覚ました。
誰かに肩を揺り動かされる。
熟睡していたとはいえ、即座に起きられるように訓練は受けているために眠気は一気に吹き飛んだ。
「状況は?」
「外が異常に静かだ。フェルシア殿も寝ているにしては静かすぎるし……なにより肌寒い。一体何が起きているんだ?」
窓の一つから身を隠して外の様子を伺う。
その目に飛び込んできたのは……
「雪……だと?」
村全体を白い雪が覆い始めている。
元々気温が高かったために若干溶けかけていたが、それを補って余るほどの雪が降っていた。
「馬鹿な……こんな異常気象起こるわけが……」
そう言いかけて、ふと最近関わった事件について思い出す。
青松村を襲った夏の大寒波。ありえない気象。
「そうかよ……また天候制御装置か。」
『マスターの報告にあった例の装置ですか。』
外を伺っていると、大柄な人影が何かを担いでノシノシと歩いていた。
暗くてよく見えないが……
「暗かったら照らせばいい話だ。ラプラス、アポロニウスを。」
『了解、アポロニウス展開します。』
鵺上部のハッチから1基の照明用ビットが飛び出した。
そいつが人影を照らし出す。
「……あん?」
全身が強固な装甲板に覆われた、大柄な人影が浮かび上がる。
肩には、リザードマンを担いでいた。そして、その鎧の人物の手が……
「っ!?なんてこった!」
真っ赤に染まっているのが見えた。
恐らくは返り血。少なくとも動物か何かを切り裂いた物ではあるまい。
「エルファ、フィー、ミスト!行くぞ、奴を止める!」
窓枠から外に飛び出し、エルファ、ミストと続く。
しかし、フィーだけは出てこなかった。
「フィー!何をして……」
彼女は空き家の中で倒れており、ピクリとも動く気配がない。
「冬眠だ!彼女は暖かくなるまではまず起きないぞ!」
「なんてこった……!フィーの剣術はかなり当てにしていたのに!」
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