第四十五話〜横恋慕〜


恋は盲目とは言うが、実際に恋に落ちるとそいつの事が気になって仕方が無くなるものだ。
一挙手一投足が気にかかり、ついつい眼で追ってしまう。
お陰で誰よりもそいつのことに詳しくなったり……若干フィルターはかかっているかもしれんがね。
ん?一般論だ一般論。

〜???〜

花畑だ。
色とりどりの花が咲き乱れ、その花畑が途切れるように川が流れている。
辺りには蝶が飛び交い、花の甘い匂いに引き寄せられるように蜜を吸っている。
川のほとりにはリコリス……つまり彼岸花が立ち並ぶように咲き乱れていた。

「これは、アレか。ジャパニーズ三途の川か。」

おやっさんの話にそんなのがあった気がする。
なんでも死人がたどり着く場所だとか。後ろから足音が聞こえ、振り向いてみると……

「な、……そんな……まさか……!」
「幽霊でも見たような顔だな、アルテア。いや、今はアルテア大尉殿だったかな?」

そう、ヘンリー曹長……今は二階級特進で少尉だった。

「少尉!貴方は死んだはず……」
「あぁ、確かに死んださ。おかげで毎日天国暮らしだよ。傭兵にはもったいねぇ毎日だ。」

苦笑するヘンリー少尉。俺は困惑を隠せない。

「やはりここは……」
「あぁ、おやっさんの言ってたヒンドゥーのカーワだな。」
「それを言うなら三途の川ですよ……少尉、貴方にはどうしても謝りたかったんだ。」

しかしヘンリー少尉はそれを手で押しとどめる。
出かかった言葉が止められてしまった。

「ストップ。別に謝る必要はねぇよ。あの時のお前の言い分も尤もだったからな。おかげででっかい魚が釣れたろ?」
「でもそれで少尉が……」
「あ〜やめやめ。聞く耳もたん。それに敬語も無しだ。今はお前のほうが階級は上だろうが。」

この人は前から変わらない。俺の階級が下だった時も敬語を使うなと言われたものだ。

「傭兵みたいなゴロツキやっていたんだ。地獄に落とされると思っていたさ。ところが来てみたら天国行きのチケットを渡されたと来たもんだ。世の中何が起こるかわからんもんだよな。」

ニヤけながら言うことでは無いと思うのだが。

「大尉、お前はまだ生きることが出来るはずだ。俺の分まで精一杯生きろ。天国から見守っているからな。」
「少尉……ありがとう。」

俺が敬礼をすると、少尉は手を振って川の方へと歩いて行く。

「じゃあな。次会うときはお前が本当に死んだ時だ。嫁さん共々待っているぜ。」

ん?嫁さん?

「あなた〜!早く行きますよ〜!」
「お〜う!今いくよマイハニー!」

川の向こう側でエンジェルが手を振っている。
……現世に戻れなくてもいいからぶん殴りたくなったのは気のせいではあるまい。
背中が引っ張られるような感覚がして、俺は意識を手放した。



〜メルガの森記念孤児院〜

AM8:00

意識が覚醒していく。
ぼんやりとした視界。遠くに茶色い何かが見える。あれは……天井か?
ぼやける意識の中、声が聞こえてきた。

『意識回復。バイタルレベルグリーン。出血による低血圧はあるものの危機は脱したと判断します。おはようございますマスター。気分は如何ですか?』
「あぁ……最高だ。昔の戦友を殴り飛ばしたいぐらいにはな。」
『言っている意味がわかりません。』

わからんでいいと手だけ振って答える。ここは……どこだろう。
たしかアルターに撃たれて……その瞬間にテレポートしたんだったか。

「ここは……」
『以前助けたワーウルフが手伝いをしている孤児院です。モイライからは大体10キロメートル程度は離れているでしょうか。所在地の詳細についてはレポートを作成しておきました。後で目を通してください。』

レポートファイルを開こうとした丁度その時、部屋の扉がほんの少しだけ開いている事に気づく。
よくみると隙間からいくつもの目が覗いていた。

「(見慣れない奴が来たから警戒しているんだな。)」

全部が全部心に傷を持つ子供という訳ではないだろうが、見知らぬ者が来たら普通は不審がる物だ。
さて、どうしたものか。

「ところでラプラス、そこの花瓶の水は飲めると思うか?」
『衛生的に見てもやめたほうがいいと思いますが。』
「とは言ってもな……結構喉が乾いているんだよな。」

おもむろに花瓶に手を伸ばし、中の花を抜き取る。
花瓶に口を付け……
「なんてやると思ったか?」
る寸前で扉の方へ視線を向けてニヤリ。覗いていた目が慌ててひっこみ、外の廊下を駆けていく音がする。

『マスター、その冗談はいただけません。』
「冗談の良し悪しをお前に言われるとは思わなんだ。」



ベッドから起き上がって伸びをする。結構長い時間寝ていたのか、体中の関節がボキボキと音を鳴らす。
銃創は若干引き攣るような痛みが走るものの、殆ど傷は塞がっていた。
完璧な治り
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