番外編〜竹取物語(偽)〜


これは俺がまだ江戸崎へ出張に行っていた頃の話。
仔鵺と虎牙鎚を壊してしまった事で大量の借金を背負った俺は、いくつものクエストをこなす事で返済に当てていた。
そんな生活の中で巻き込まれたドタバタ劇だ。



〜冒険者ギルド 江戸崎支部 ロビー〜

クエストボードから持ってきた紙をちゃぶ台に並べ、どれを受けるか吟味している時だ。
ガラガラとギルドの扉が開かれたかと思うと、ネコミミの女の子がつかつかと入ってきた。
服装はよく町娘が着ているような渋染ではなく、煌びやかな錦で織られた和服。

「依頼をたのむ!」
「あ……え〜と、おうちの方は?」

その子が背伸びをしてカウンターに座っているプリシラへ依頼の申し込みをしている。
入り口の外を見ても特に誰かが付き添っているという様子はない。

「ひとりじゃ!あるてあという男に頼みたいことがあるのじゃ!」

それにしても元気な女の子だなぁ……って俺宛の依頼か。
なんだか厄介ごとに巻き込まれそうな気がしなくもないが、こちらは雇われている身なので迂闊に拒否もできない。
すまなそうにこちらへ目配せをしてくるプリシラに頷いて返すと、その女の子の所まで歩み寄った。

「どうしたんだ?俺に何か頼みごとか?」

腰をかがめて彼女との目線を合わせて聞いてみる。
彼女は俺が探していた人物だと知ると、大して無い胸を張ってこう曰った。

「わらわのために宝物をとってくるのじゃ!こうえいに思え、わかいの!」

これはバカにされていると取ったほうがいいのだろうか。
プリシラもパチクリと何が起こっているのかわからないようにこちらを凝視してくる。

「オーケー、ワガママプリンセス。ここは冒険者ギルドだ。何かを頼むんだったらそれ相応の対価が必要になる。あんたは俺が宝を取ってくる代わりに何を用意してくれるんだ?」
「わらわの家来にしてやる!どうじゃ、みりょくてきじゃろう?」

…………
オーケー、KOOLになれ俺。相手は子供だ。世間のせの字もしらないような箱入りのクソガキだ。
だから俺がここでブチキレる程大人気ない事はない。
ここでお仕置きとしてケツが腫れ上がるほどスパンキングしてもいいが、それだと後で何が起こるかわからん。俺の勘がそう言っている。

「悪いが報酬は現金か即座に換金できる物で頼む。一応こちらも商売なんでね、ただ働きして受け取れるのがどこの誰ともしらないような場所への転職というのはいただけないぜ?」
「何処の誰とはなんじゃぶれいもの!わらわはささなひめじゃぞ!」

外見から自称姫とか言い出すのはわかりきっていたが、本当に自称するとは思わなんだ……。
こんな勘違いを育てたのはどこのバカだ?

「あ……れ……たしか……現領主の愛娘の名前は……江戸崎笹鳴(ささな)じゃ……ありませんでしたっ……け……?」

俺とプリシラがダラダラと冷や汗を流し始める。
彼女の言うことに間違いがなければ目の前にいるこの猫娘は領主である江戸崎栄之助の娘……詰まるところマジ物の姫様という事になる。

「おいプリシラ、至急役所に連絡入れろ。超弩級の迷子だ。何かあったら今度こそ首を刎ねられるかもしれんぞ。」
「はははははははいいいい!ただいまー!」
「待つのじゃ!いま連れ戻しにこられたらこまるのじゃ!」

奥の事務所へ引っ込もうとするプリシラに超人的な跳躍力で飛びつく笹鳴姫。
尻尾は二本……ワーキャットではなく猫又らしい。

「きゃー!姫様ご無体なー!」
「よいではないかよいではないかー……じゃないのじゃ!誰にもきづかれずに抜けだしてきたのじゃからしられるとこまるのじゃ!」
『意外とキレのあるノリツッコミですね。なかなかやりますよ、彼女。』
「アホか。誰にも知られていないって事は本格的に連絡しなきゃまずいぞこれ。」

いつの間にか姫失踪→冒険者ギルドで見つかる→つい最近起きた妖怪失踪事件の真犯人?→クビチョンパ

「冗談じゃねー!さっさと知らせないとマジでこっちの命が危ない!」
「させないのじゃ!」

俺が慌ててギルドの外へ駆け出そうとすると、笹鳴が髪に刺してあった簪を俺の足元へと投げつけて深々と床へ突き刺す。
すると……

「が……!う、うごけ……」

全身が金縛りにあったように動かなくなってしまった。
そのまま彼女は俺の横を通り過ぎて引き戸に鍵を掛け、振り返って俺を見てニヤニヤと笑い始めた。

「かげぬい、なのじゃ。気合ではどうにもならんぞ?わかいの。」
「わかいって……どう見ても……お前のほうが年下だろうが……!」
「しっけいな!もう十歳なのじゃ!」
「十分子供じゃボケェ!」

思わずツッコミを入れてしまった。この娘、ボケもツッコミも行けるクチか。できる……!ではなくて。

「本当に頼む、ここであんたが連絡も無しにいるって事が分かったら俺
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