〜連絡船 甲板〜
「何だか雲行きが怪しくなってきたな……。」
先程まではあんなに晴れていたのに、いつの間にか空には暗雲が立ち込めていた。
風が強くなり、船が大きく揺れる。
雲からはゴロゴロと雷鳴が轟き、これから一雨来ます的な空気である。
「プリシラ、船の中へ入ろう。嵐が来たら航海どころじゃないだろう。」
「そうですね……暫くは動けないでしょうし、中でおとなしくしていま……」
その時、プリシラの小さな体がグラリと揺れる。
「ぇ……?」
バランスを崩して彼女の体が船の外へと投げ出される。
「プリシラ!」
慌てて周囲を見回すが、浮輪らしき物が見つからない。
空の樽を投げても捕まっていられるかどうか……
「ちぃ!」
迷っている暇はない。彼女を助けるために咄嗟に海に飛び込む。
鵺を持ったまま。
「……あ“」
鵺その物は強化プラスチック製だが、内部には金属製の機構がびっしりだ。
当然浮きになるどころか重石にしかならない。
俺の体は着水と同時に鵺の重さで沈み始める。
『マスター、鵺を放棄して下さい。回収は海洋性の魔物に任せましょう。』
「(んなこと出来るかよ!必ず見つかるって保証は無いんだ!)」
無理矢理にでも水を掻き分けて海面へと上昇する。
運悪く雨が降ってきて、俺達が飛び込んだ音はかき消されてしまったようだ。
「プリシラ!どこだ!」
鵺に引っ張られて溺れそうになりながらも彼女を探す。
波間に見え隠れするように彼女が溺れていた。
「アルテ、たす、うぶ、死んじゃ!」
彼女に泳いで近づき、ジャケットに掴まらせる。
「(ラプラス!ブリッツランス、BAGブレイド、何でもいい!推進力のある物でなんとか上に上がるぞ!)」
『この状態でBAGブレイドは船体を傷つける可能性があります。ブリッツランスで近くの陸地まで飛びましょう。』
アームサポーターで腕と鵺を固定。シェルブースターと突撃槍が展開され、チャージが開始される。
『現在地より一番近い陸地は北西へ2キロ地点の島です。そこまで移動します。』
ブリッツランスを方向指示通りの方向へと向ける。
チャージされたブースターに点火され、海中を猛然と進み始めた。
海中で発動したためにフィールドの中も水で満たされているが、こいつの速度ならば1分も掛からないで着くはずだ。
〜カレドナ島〜
ブリッツランスで砂浜を削りながら減速。
速度が時速10kmを切った時点でフィールドが解除され、空気を吸うことができた。
『ブリッツランス格納します。』
ランス一式が光の粒子に分解されて鵺の中へ戻って行く。
背中のプリシラを降ろして様子を見る。
「ヤバいな……大分海水を飲んだみたいだ。」
彼女の顔が青白いのは海が冷たかったからでは無いだろう。
彼女を起き上がらせて背後に回り込み、俯かせて鳩尾部分に拳を押し付けて圧迫する。
所謂ハイムリック法と言う奴だ。
「う、ゲホッ、げほっ」
押しこみ続けていると彼女が咳き込んで海水を吐き出した。
なんとか海水を吐かせることに成功したが、体温が低下したままだ。
当然バックパックの毛布は使い物にならないし、服も言わずもがなずぶ濡れだ。
とりあえず雨の当たらない近くの洞窟の中へと退避する事に。
濡れた服を着ていても寒くなる一方なので服は脱ぐ。
洞窟の中の砂は乾いていたのでそれを全身に付けてから払い落とすと割と乾いてくれた。
プリシラも同じように砂をつけて払い、後ろから抱きしめて温める。
幸い風は吹きこんでこないので体感温度はさほど低くは無い。
「大丈夫か?」
「……寒い……です。」
なるべく接触面積を多くするようにしてやるとやがて彼女の震えは収まっていった。
「ラプラス、ここは一体どこだ?」
『大陸東より50キロほど離れたカレドナ島と呼ばれる無人島です。連絡船からの航路からはよく見えますが、通常人は寄り付かない場所にあります。尚、魔物の存在も確認されていません。』
「50キロか……ブリッツランスじゃ途中でオーバーヒートを起こすな。となると何かしら救助を求める物が必要だ……スモークグレネードはまだ使えたよな?」
『肯定。救難信号代わりにはなると思われます。』
通信手段の確保は完了した。
住居はこの洞窟を使えばいいだろう。
問題は……
「他には当面の食料だな。雨が上がったら何か食える物を探しに行くか。」
『タンパク源を優先して探しましょう。コウアトルを海中に入れて作動させれば魚を取ることが可能です。次点でビタミンの補給に使う果実ですね。塩分に関してはお土産の醤油か海水を蒸発させて使いましょう。』
「まさか趣味で買った醤油が本気で役に立つ日が来るとはな……。あとは水か?」
『水源が無いことも考えられます。森林がある以上ど
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