第三十七話〜お高くとまったエルフがこんなにエロい訳がない〜


人間何事も適度にガス抜きをすることが大事で、いつまでも根を詰めているとふとした瞬間にあっけなく崩れ去ってしまう物だ。
ガス抜きの方法は人それぞれで、遊びだったり釣りだったり読書だったり……人によってはセックスなんかであったりもする。
精神構造や身体的構造が似通っている魔物達もそれは変わらず、彼女たちにとっては人と交わる事が食事であり、ガス抜きであり、パートナーとのスキンシップであり……と中々合理的な作りになっている。
だからさ、あまり我慢しないほうがいいんだよ。じゃないと爆発したときに大変なことになるんだから。


〜江戸崎冒険者ギルド ロビー〜

朝起きて顔を洗った俺はロビーで緑茶を啜っている。
いつもの朝の一杯の習慣というものはなかなか抜けないもので、緑茶じゃなくても酒と煙草以外の何かしら嗜好品を飲んでいたりするのだ。
ただしルートビアは別だ。あれはいただけなかった。

「で、だ。何でお前は俺の向かい側に座って俺を睨みつけているんだ?」

俺の向かい側にはアイシャが陣取って俺が緑茶を飲む所を凝視している。

「別に。全員集まるまでは暇だし、ただの人間観察よ。」
「さよか……」

俺は実験動物か何かか。
その内観察日記でも付けられそうな感じだ。

「そういやお前ってパートナー……男女の関係的な意味でってのだが……探しに来たんだっけ?エルフなのに珍しくないか?」

疑問をぶつけると彼女は皮肉げに口の端を吊り上げて薄く笑う。
そして頬杖を突きながらこうのたまった。

「もう……ね。エルフの掟とかプライドとかどうでもよくなったのよ。サキュバス化しかけて私の事をバケモノ扱いした里長の顔を見たら、ね。」
「そりゃまぁ……辛いこと訊いちまったかな……」
「別に気にしていないわ。昨日まで親切にしてくれていた里の連中が掌返したように罵声浴びせてくるのよ。それ見たらエルフも人間も対して変わらないんじゃないかって。あれだけ人間を蔑んでいたのに皮肉な物よね。」

長い髪を一房手にとってクリクリといじくり回すアイシャ。
その顔には拭いきれないほどアンニュイな雰囲気が漂っており、心底『どうでもいい』という退廃的な精神状態になっているのが伺えた。

「んで、里にいられなくなって外の世界に飛び出して気づいたわね。どれだけこの世界は広いのかって。正直昔里に引き篭っていた自分の襟首掴んで放り出したい気分だったわ。」

髪を弄るのを止めると、今度は自分の前の湯呑みに口をつけて溜息をつく。
薄目を開けてリラックスする様子がどことなく色っぽい。

「そうしたら今度は自分の中で燻っている何かに気づいたワケ。別に初めてじゃなかったから解ったけどそれって恋焦がれる……とか言うのかな。幼なじみに一度だけ感じたことがあったわ。今度のは対象がいなかったけどね。」

魔物としての本能なのだろう。
本能に目覚めた彼女たちは否定しつつも自ら男性を探す行動をとってしまうという。

「その時かな。エルフや人間にこだわらずにとびきりいい男を捕まえてやろうって思ったのは。それで二人で里へ戻って私たちはこんなに幸せなんだぞって見せつけてやってさ。滅茶苦茶怒っているあいつらの顔みて笑ってやろうってね。」
「随分ひねくれてんのな……お前。」

関心するやら呆れるやら、俺は目の前のぶっ飛んだエルフを改めて眺める。
そのささやかな復讐を語るエルフはどこか誇らしげだ。

「だから今の私はエルフじゃない。私を見捨てた里に牙を剥く……ただの復讐者よ。」
「随分かわいい復讐者もいたもんだな。」

冗談交じりにそう言ってやると彼女は頭から水蒸気が出そうなほど真っ赤になる。

「な、な、ななにいいいいいってんのあんたは!?かわいいとか似合わないでしょ!?私には!」
「落ち着け。ほら、深呼吸。」

言われたとおりに深呼吸するアイシャ。
所作や言動は皮肉っぽいが、根は素直な性格らしい。

「別に他意は無いから安心しろ。あと似合わないとか言わずに素直に取っとけ。言われている内が華だぞ。」
「〜〜〜〜〜〜!」

恨めし気に上目遣いで睨みつけてくる彼女。天然でこれをやっているのだとしたら大した男殺しだ。



「全員集まったな。それでは今回の仕事を割り振ろう。」

アーサーの号令で空気が引き締まる。流石は年長者と言ったところか。
彼女はボードから持ってきた依頼をちゃぶ台の上に並べていく。

「サクラとリュシーには引き続き倉庫整理を頼もう。まだ終っていない依頼もあるから迅速に頼む。」
「迅速にってどうすればいいんですかぁ……」

無茶な注文ではあるだろうが、運搬系の依頼というのは時間が掛かる性質上溜まりやすい。
アーサーの言うとおりハイペースで終わらせないと無くならないだろう。

「私とエレミアは山中のゲリラ組織の壊滅だ
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