第三十四話〜これってさーせん?〜

〜冒険者ギルド モイライ支部 ロビー〜

女という物は一度ヘソを曲げるとなかなか機嫌が治らないもので、なだめすかし、欲しい物を買い与え、何回も接触を持って初めて許されるケースが多い。
それはこの世界の魔物も変わらないらしく、ひとりぼっちにされたメイは酷くご機嫌ナナメだった。

「悪い、置いてきぼりにして。」

結局俺は、旅の館の往復券(このクエストで配給されるはずだったもの)を使ってアタゴニアまで行き、メイの分の転送代を払ってモイライまで戻って来た。その転送代とアニスちゃんへの返済で報酬は全てパー。結局エクセルシアを手に入れただけで儲けは完全に無くなっていた。

「う〜……」

おまけにメイの機嫌は最悪。人間椅子+頭ナデナデでも機嫌が直らない。
ときたま膨らませた頬を指で押して空気を抜いてみるが、すぐにまた膨らみ始める。

「悪かったってば。ごめん。」

ゴスゴスと俺の胸板に後頭部を打ちつけてくる。ていうか角が痛い痛い。

「アニキー!なんでアタイ達連れて行ってくれなかったんスかー!」
「つれてけー!」
「けー!」

おまけにゴブ三もご立腹。こいつらに黙って行ってしまったとはいえ、連れて行く余裕が無いことも事実。
第一こいつらの分まで宿代は払えなかっただろうから毎度野宿しかない。
別に野宿は問題無いのだが、後に控えている物が物だったのでなるべく体力を温存したかったというのもある。
……尤も、宿泊する段階でかなり体力を削られたあたりあまり変わらなかったかもしれないが。

「しかたねぇだろ。そこまで連れて行く資金無かったんだから。」

おまけに言うなればこれからの生活費も無い。どーすんだこれ。

「そんなアルテア君に大チャーンス!」

ミリアさんが後ろから両肩を叩いてくる。
満面の笑みをたたえ、ぐにぐにと俺の肩を揉んできた。あんたはどこぞのセクハラ部長か。

「今ジパングの冒険者ギルドから連絡が来てね、人手不足だから人を送ってほしいって要請が来ているのよね〜♪」
「つまり何か?出張費出すから行って来いと?」
「その通り♪」

休む暇がねぇ。

「アニキー!今度はアタイ達も連れてって……」
「それは無理ね〜……彼以外の出費はできないし。」
「そんなぁ……」

ガックリ項垂れるゴブ三長女。

「あにぃ、またどこかいく?」
「悪いな、今回は連れていけないらしい。」

頬をぷっくりと膨らませるメイ。
あぁ、どんどん好感度が下がっていく。

「今からか?」
「えぇ、今から。でも今日はクエストを受けるには遅いから向こうに着いたら休んでいいわよ。」
「了解……行くぞ、ラプラス。」
『了解。』

俺が立ち上がろうとすると、ミリアさんに押しとどめられた。

「ちょいまち。その子はミミック通信網で送って行きなさい。」
「あん?何でだ?」

彼女は人差し指を振って現状を伝える。

「どうにも旅の館の転送陣の調子が悪いらしいのよ。重い手荷物はなるべく別手段で送ってくれって通達が来ているわ。」
「いきなりか。さっきまでは普通に行けたのに。」
『先ほど、転送時の座標の乱れが3ミリ程増えていました。安全を考慮するのであれば従っておくほうが得策だと推測します。』

まぁ確かに地面の下の方に座標がずれたら大変か。
俺は受付横の宝箱を開ける。
中から元気よくミミックが飛び出してきた。

「はーい!毎度どうも、ミミック通信網でーす!」
「こいつをジパングの冒険者ギルド……あ〜、どこの?」
「エドサキよ。」
「エドサキの冒険者ギルドへ。一応何も出ないと思うけれど引き金には手を触れるなよ?」

そう言って鵺をシアに渡す。
かなり重かったらしく、彼女は少しよろけた。

「はいは〜い。この子はこちらで梱包しても構いませんか〜?」
「お任せするよ。じゃあな、ラプラス。向こうで会おう。」
『了解。』

シアが宝箱の蓋を閉めるのを確認すると、ミリアさんから紹介状を貰ってギルドを出た。


去り際に、ミリアさんとメイが何かを話しているのを見たが、何を話していたのだろうか。



〜旅の館 江戸崎側〜

「…………」
「あの、何でしょう?」

俺は酷い違和感に頭を痛めている。

「あのさ、もうちょっと空気読もうぜ。」
「はい?」

さすがジパングともあって旅の館の中も土間風の床に畳や襖など和風家屋なのだが……。

「なんでお前はいつものテンプレ魔女なんだよ!もうちょっとこう和服とか浴衣とかさ!雰囲気にあった服を着ろよ!」
「いえ、これが制服ですから……。」

自分でも理不尽な事を言っているのは解っているのだが、納得いかなかった。



〜華の都 江戸崎〜

「お〜……昔の日本だ。」

それは古い絵画でしか見たことない日本家屋が軒を連ねる街だった。
木造建築による長屋がそこかしこに並び建
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