番外編〜ニータのお仕事〜

〜冒険者ギルド ロビー〜

「ぬ〜……」
「う〜……」

いつもながらに思うが、この二人はなぜ俺の膝の上を取り合うのだろうか。
俺の膝の上ではアニスちゃんとニータがおしくらまんじゅうをしていた。
ちなみに背中に抱きついているのはメイ、正面に座って砂糖をたっぷり入れたコーヒーを飲んでいるのはエルファだ。

「お前ら少しは仲良くしろよな?目の前で喧嘩されちゃ俺だって迷惑だぞ?」
「だっておにいちゃんのひざのうえはわたしのとくとーせきだもん」
「誰がそんな事決めたのよ。昨日はアニーだったんだから今日はあたしでもいいじゃない。」

あ〜こらこら、火花を飛ばすな火花を。


<カランカラン……>


そんな小さな小競り合いをしている所にベルの音が鳴る。
ギルドの玄関に取り付けられている物だ。
中に入ってきたのは見慣れない男。服装はかなり軽装だ。

「ニータ、少し話がある。」
「あら、キーちゃん。どうかしたの?」
「そのキーちゃんというのはやめろ……お前達に任せた例のブツはたしかに全て回収したんだな?」

例のブツ?こいつは一体何を言っている……

「間違いなく全部回収したよ?殆ど偶然だけど……ってまさか。」
「そのまさかだ。パレナ鉱山との連絡が途絶えた。」

真っ青になるニータ。一体どうしたんだ……?

「そんな……回収に漏れがあった!?」
「そうでなければ連絡は途切れまい。お前は直ぐに状況の確認へ行ってくれ。」

そう言うと男は要件は終わったとばかりにギルドを後にした。

「……アル、一緒に来て。」
「何?」

そう言うとニータは俺の手を引いて椅子から立ち上がらせた。
アニスちゃんが抗議の声を上げる。

「ニータちゃん、抜け駆けはずるくない?」
「ごめん、アニー。今回ばかりは真剣なんだ。だからここは引いて。」

いつもの無邪気さは一切無い。あるのは底冷えしそうなほどの空気だけ。

「……ごめんなさい。」
「ううん、勝手言ってこっちこそごめん。この埋め合わせはそのうちするから。」

ニータはひょいと飛び上がるとメイを引っ剥がし、椅子へと座らせた。
不満そうに口を開けたが、すかさずその口の中に飴をつっこむ……ってそれ俺の飴!?

「うを!?いつのまに!?」
「驚いている暇は無いよ。さ、いこ。」

そう言うとニータは俺の手を取ってギルドを飛び出した。


「……すっかり置いてきぼりを食らってしまったのぉ……」
寂しそうにエルファがそう呟いたのは誰も聞いていなかった。



〜旅の館〜

ニータに引っ張られて来たのは旅の館だった。
鵺は出掛けにニータが渡してきた……ってこいついつの間に。

「おい、説明ぐらいしてくれ。これじゃなにがなんだかわからないぞ。」
「詳しくは現地で話すから。今は黙っていて。」
『マスター、ここは彼女に従いましょう。何か緊急事態が起こっているようです。』

ニータにたしなめられ、ラプラスに促されて俺は仕方無しに口を噤んだ。

「鉱夫街ブレントへ二人分ね。」

受付へニータが金貨を6枚突きつける……っておい。

「本気で訳がわからなくなってきたぞ。ニータ、お前何者だ?」

しかしニータは何も言わずに俺を転送陣まで引っ張っていく。
転送陣へ入ったとたんに意識が反転し、気がつけば別の旅の館へと飛ばされていた。



〜鉱夫街 ブレント〜

転送されて来たのはいいが、妙に静かだ。というより旅の館の中に人っ子一人いない。
外の喧騒も無く、完全に静寂に包まれている。

「どうなってんだこりゃ……」
「遅かった……!」

ニータが出口へ駆け寄り、気配を消して扉から街を覗き込む。
俺も真似をして覗き込むと……。

「うげ……何だあれ。」
「……グリードアント。凶暴な人食いアリだよ。」

地面の所々に真っ黒な塊が蠢いている。しかし、それだけではない。
黒い塊の他にも白くて細い物や丸い物も……。

「あれ……人骨か?ってことはこの黒い塊は……」
「人……だと思う。もしかしたら魔物も混ざっているかも。」

たしかに一際大きい黒い塊のシルエットから見れば人間ではない物も混ざっている。

「あたしの……せいだ……!なんて事を……!」
「とりあえず閉めよう。長いことみたくなる光景じゃない。」

震えるニータを促して俺はアリを刺激しないように静かに扉を閉めた。



「で、一体何が起こっているんだ?あのアリはどこから出てきた?」
「アル、最初に謝っておくね。前に騙してごめん。」

はい?

「実はアルが以前うけていた倉庫の荷出し、あの荷物の中にあのアリが紛れ込んでいたんだ。」
「いや、ちょっと待て。あの中身は爆薬に使う硝石だろ?なんだってそんなものが……」
『考えられるのは一つぐらいしかありません。恐らくは鉱山を狙ったテロ行為でしょう。』

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