〜???〜
『私は……負けてはならない。』
声が聞こえてくる。いつもの黒い空間。
幾度も心の闇を照らし出したあの空間だ。
『幼い頃から私は、敗北を許されていなかった。』
剣を振るう少女、後ろには試合で打ち負かされたと思わしき少年少女たち。
彼女は傷つきながらも凛として立っている。
『常に強くあれ、常に負ける事なかれ。これが私の家の家訓だった。』
厳格そうな父親と、凛々しい母親。
『負けても叱られることは無かったが、その分鍛錬を増やされる。』
練兵場の光景だろうか。木偶に向かって木刀を振り下ろす少女。
『両親の目論見通り、私は強くなった。しかし……』
少女は女性になっていた。所々目玉があしらわれた鎧を着こみ、大剣を構えている。
『その時には私は、負けることは許されないという妄執に駆られていたのだ。』
彼女の周囲には、倒れ伏す兵士達。死んでこそいないものの、まともに動くことすら出来ないようだ。
『強くならなければいけない……負けてはならない……常に勝ち続けなければならない……』
返り血を浴びながらも進み続ける女性。
その姿はまるで修羅のようであった。
『勝たなければ……強くならねば……強く……強くつよくつよくつよくツヨクツヨクツヨクツヨクツヨクツヨクツヨクツヨクツヨクツヨクツヨクツヨクツヨクツヨクツヨクツヨクツヨクツヨクツヨクツヨクツヨクツヨクツヨクツヨクツヨクツヨクツヨクツヨクツヨク……』
景色がヒビ割れ、色褪せる。彼女の闇は、大体解った。
『大変なことだな。勝ち続けるってのは。』
俺が現れた途端、景色が修復されていく。城の中の練兵場のような場所だった。
彼女は何も言わない。
『でもよ、それでお前は満足なのか?』
俺は彼女に問いかける。彼女の求めるべき強さが何かを気付かせる為に。
『ナニ……?』
『お前は何のために勝とうとするんだ?お前にとっての強さって何だ?』
『ギャクダ、マケルコトニイミハナイ。ソシテツヨサトハチカラダ。』
これもほぼ予想通り。親父さん、おふくろさん。あんたら子育て苦手だったんですかい?
『ありがちだよな、それ。何も無いから負けられないとか、力こそが全てだとか。』
俺は言葉を続ける。彼女の両親が本当に伝えたかった強さを。
『じゃあさ、負けた奴が『負けなかった』場合ってのが何だかわかるか?』
『ソンナモノ、ソンザイシナイ。ハイシャハハイシャダ。』
『お前、小さい頃は負けたりもしたんだよな?悔しかったか?』
『アタリマエダ。マケタアトノタンレンモ、ワタシガノゾンデイタ。』
俺はしてやったりとほくそ笑む。
『じゃあ、お前はその負けた時でも負けなかったんだ。心が折れなかったからな。』
『ココロ……?』
『お前の親もそう言いたかったんじゃないかな。負けるなって事は、心を折るなって事だったんじゃないか?』
おそらく、彼女の両親が言いたかったのはそういう事なのだ。
『ソレデハ、ワタシガカチツヅケテイタノハマチガイダッタノカ?』
『勝つこと自体は悪くないさ。勝利を追い求めるのも生き物の常だ。でもな、勝つこと自体に意味を求めるのは間違っている。強さを誇って勝ち続けるのはただの自己満足だ。』
俺は彼女に歩み寄る。彼女はたじろいでいたが、構うものか。
『お前の親はさ、別に剣の腕とかが強くなって欲しかった訳じゃないと思うんだ。本当に必要なのは、これだ。』
彼女の胸元に拳を当てる。
人とは、心さえ折れなければどこまででも強くなれる物なのだ。
それは、魔物も同じ。
『ココロ……』
『そういう事だ。折れず、弛まず、真っ直ぐに。実際、力がなくてもどうにかなるもんだ。俺も訳あって一気にいろんな武器を失ったが、割と何とかなっているぜ?諦めていないからな。』
ま、そうなると色々と苦労はするだろうがね、と俺は肩をすくめて見せる。
『ワタシハ……ワタシハ……』
『勝つ必要なんて無い。問題は、敗北から何を学ぶか。どう立ち直るかだと思うぜ?』
彼女は地面に膝を付くと、さめざめと泣きはじめた。今まで堪えてきた分を流すように。
『私の負けだ。』
唐突に彼女が言う。その顔は屈辱とかではなく、妙に晴れ晴れしい。
『まだ勝ち負けにこだわるのか?』
『いや、そうではない。お前の心意気に、強さに、意志に負けたのだ。』
彼女は俺の前に跪く。
『心の底から慕わせて欲しい。生涯お前に尽くそう。』
いきなりプロポーズかよ。
『本心は?』
『本心も何もこれが私の』
<カポ>
首を外してやる。中から何かが漏れてきた。
『正直辛抱たまらんので抱いてもいいですか?』
<カポ>
『……』
『……』
沈黙が流れる。どうにも気まずい。こうなったら静寂を打ち破る一撃を…
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