第三話〜「一見様はお断りします」〜

〜モイライ冒険者ギルド支部 ロビー〜

「すまない、もう一回言ってもらえるかな?」

若干焦りながらカウンターの受付嬢に確認を取る。

「ですから、2級以上のギルドメンバーの紹介か冒険者アカデミーの推薦状がなければギルドに登録はできませんよ?」

なんてこったい……


〜モイライ 中央広場〜
「まいったねこりゃ……」

暑くも無く、肌寒くもない昼下がり。俺は広場のベンチに腰掛けて空を見上げていた。

「紹介が必要だなんてフェルシアの奴一言も言ってなかったんだがな……」

金が無くては何もできない。何か仕事をするにはその業種のギルドに登録が必要。ギルドに登録するには紹介してもらうかアカデミーの推薦状が必要。そしてアカデミーに入学するには……

「金が必要だろうなぁ……やっぱり」

堂々巡りである。
どこのギルドもこのような形式を取っているのは、ある事件があってかららしい。
通称『羊皮事件』
教会のスパイが冒険者に成りすまし、ギルド内部から情報を漏らしていたという事件だ。
この事件により、スパイが紛れ込んでいたギルド支部は教会が雇った傭兵に襲撃を受け壊滅。多くの冒険者が犠牲になったとか。
これを教訓にどのギルドでも既存のギルド員からの紹介が無ければ登録ができなくなったらしい。



空きっ腹を抱えてベンチで途方に暮れていると……

「……っ……ひっく……」

「んぁ……?」

どこかから声が聞こえてくる。辺りを見回してみると子供が泣いている。

「(やれやれ……俺もお人好しだこと……)」

頭を掻きながら、すすり泣く子供に近寄っていく。頭に生えた角、背中にコウモリのような羽、先端がハート型の尻尾。どうも人間の子供ではないようだ。

「どうかしたのかい?」

怯えさせないように目線を合わせて尋ねる。小さい子と接する時の基本だ。

「おが、おがあざんと……っひく……はぐれぢゃったの」

どうやら迷子らしい。

「そうか……おかあさんとはどこまで一緒だったかわかるかい?」

努めて冷静に。しかし声に冷たさは出さないよう話していく。

「ばんごはんのかいものの……ひぐ……ときまではいっしょだった。」

夕飯の買い物……商業区の市場だろうか?地図で見る限りでは食料品が手に入りそうな場所はそこいらしか無さそうだが。

「それじゃあ何ではぐれちゃったのかな?手はつないでいたんだよね?」

このぐらいの子供なら大体は迷子にならないように母親と手をつないでいるものだが……

「つないで……いたけど……う……ほどけちゃったの」
「そうか……」
「しっかり……うぐ……つな、で……たのに……ぇう」

そこまで聞くと俺はその子の頭を撫でながら

「心配しなくていいから……お兄さんが一緒に探してあげるから……な?」

頭を撫でる行為は距離を縮める効果があるとかどこかの学者が言っていたな〜と思いながら撫で続ける。

「あ……がと……うぇぇぇぇ……」

余計泣き出した。



〜商業地区 大通り〜
「こっちかい?」

「うん」

彼女―アニスちゃんと言うらしい―の手を引きながら夕暮れの街を歩く。
目指すのは市場近くのはぐれた場所だ。
彼女は手を握るというより腕に抱きつく形で俺の左手にしがみ付いている。

「(母親が何度も探すとしたらはぐれてしまった地点の筈だが……)」

辺りをきょろきょろ見回しながら探していると、不意にウィンドウがアラートを発してくる。

『報告。生体センサーに途絶しかけている反応有り。10時方向、距離20』

「(途絶しかけ……?死に掛けているのか?)」

流石に死に掛けの人を放置するのは後味が悪い。

「アニスちゃん、ちょっとだけ寄り道するけどいいかな?」
「よりみち?」
「そ、寄り道。人助けかな?」
「お〜……せいぎのみかただ」

感心するような尊敬するような眼差しを向けるアニスちゃん。少しくすぐったいものがある。

「裏路地に少し入ったところだな……アニスちゃんは入り口で待っていてくれるかい?」
「は〜い!」

元気よく返事をする彼女を残して路地裏へと入っていく。
反応はすぐそこの曲がり角を曲がった所だ。

「行き倒れですか〜……?野良犬程度ならいいんだけど……っと、ここ……だ……?」

水溜りを踏む感触。しかしその水は妙に粘り気があり、どことなく生臭く鉄の匂いがして……

「なん……だよ、これは……」

紅い水溜りに沈む女性。体には無数の切り傷が走っている。

「おにいちゃ〜ん、どうし……た……」

戦慄する俺の気配を感じ取ったのかアニスちゃんが駆け寄ってきて、「見てしまった」

「い……いや……お……おか……おかあさん!!」

駆け寄るアニスちゃんに俺は手を伸ばしたが、届かなかった。アニスちゃんが女性を揺さぶっている。

「おかー
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