幕間〜コーヒーと甘菓子〜

〜帰りの馬車で〜

シルクからの帰りの馬車。中には俺とチャルニが乗っている。

「また貸切状態だな。」
「そうだね〜……♪」

擦り寄って来るチャルニ。こいつは二人きりになると急に甘え出すな。

「……またか?」
「そのつもりだけど?」

股間に指を這わせるんじゃありません。はしたない。
その時、遠くからでも分かるような鎧がこすれあう音と、規則的な足音が聞こえて来る。

「伏せろ。」

俺はチャルニを馬車の席と席の間に押し込める。本能的に嫌な予感がしたのだ。
馬車の外を覗き見ると、無骨な鎧に身を包んだ一団が行進している。鎧には所々十字架を模したデザインの装飾が施されていた。
馬車は一団の行進を妨げないよう、街道を外れてまで大きく迂回する。

「(面倒事を起こしたくなきゃそれが正解だろうな。)」

一団は槍を上に掲げて行進している。どうも槍に何かが突き刺さっているようだがここからでは良く見えない。
やがて完全に一団から遠ざかると、馬車は街道へと戻っていった。

「あの一団は一体なんなんだい?教会の連中か?」

俺は御者台のおやっさんに訊いてみる。

「あぁ、教会騎士団の征伐隊だろうな。ありゃ帰りの連中だろうな。」

俺は馬車から首を出して後ろの方に遠ざかった一団を振り返る。
彼らは既に遠く、ここからでははっきりと見ることは出来なかった。

「アル?もういい?」

座席の間からチャルニが声を上げる。

「あぁ、いいぞ。」

そう言うと、彼女はそこから這い出してきた。

「ふぅ……一体なんだったの?」
「別に、見ていても胸糞悪い物が通り過ぎただけだ。」

彼女は不審そうに俺を見ていたが、特に追求はしてこなかった。



〜お静かに。〜

〜冒険者ギルド ロビー〜

「あれ?アルはどこ?」

いつもの席に座っている筈のアルが今朝はどこにもいなかった。
別に避けられているとかいうのじゃ無いはずだけど……

「あれ、ニータ。どうしたの?」

チャルさんがアルを探すアタシに気づいて声を掛けてきた。
彼女なら何か知っているかな?

「チャルさん、アル知らない?いつもの席に座っていないみたいなんだけど……」
「アルなら何か作りに行くとか言って街を出たよ?なんでも危険だから室内じゃできないんだとか……」

むぅ……アルの奴、どこへ行ったんだろう。



「姐さん!」
「何かわかった?」

自分の手下を使って色々と情報を集めていたら一人が何かを掴んだみたいだ。

「アルテアのアニキは袋を持ってうたたねの草原の真ん中へ行ったみたいです。他にも気になることが……」
「どんな?」

その子は首をかしげて不可解だとでも言わんばかりに顔をしかめている。

「アニキは魔道触媒を買っていたらしいんですよ。何でも火属性系統の素材が多かったとか。」
「魔道触媒?」

アタシが知る限りではアルは魔法なんて使えなかったはず。
それなのに魔道触媒を買っていた?

「気になるね……うたたねの平原で間違いない?」
「はい。実際に見てきた子がいたみたいで。」

アタシは子分に礼を言うと街の出口へと向かった。
アイツ、一体なにをしようとしているんだろう?



〜うたたねの平原〜

うたたねの平原はモイライ付近の一帯に広がる草原だ。
地盤がしっかりしているため道が作り易く、モイライが発展したのもこの交易をしやすい土地だったから、という説が有力だったりする。どうでもいいけど。

「あ、いた。」

探し始めてさほど経たずにアルを見つけた。
普段は付けない分厚い革鎧やフェイスガードを付けて、腰を下ろしてなにかをゴソゴソとやっている。

「(少し驚かしてあげようかな……)」

気配を消し、足音を立てないように忍び寄る。
あと数歩の所で……

「わっ!」

「うぉう!?」

大きな声を出して驚かせる。
予想通り面白い声を出して驚いて……

<ボンッ!>

爆発が起きた。
辺りは黒煙が立ち込めてアタシとアルが結構な距離を吹っ飛ばされる。

「ゲホッゲホッ!に、ニータ!?なんでここに!?」
「アルこそここで何してるのさぁ……爆弾でも作ってたの?」



「ばくはつはんのうそうこう?」
「あぁ、ある程度金が貯まったし、少し前にあんな事があったからな……」



あれは数日前だ。
俺は広場でクレープを食べながらくつろいでいたんだ。
要するに完全に油断していた訳だ。

『そこの人!あぶない!』
『あん?』

突如背中に走る衝撃。吹っ飛ばされる俺。噴水の中に突っ込み、息も絶え絶えに這い上がって外を見ると今しがた座っていた場所を丸太が潰していた。
少し離れた場所でミノタウロスが何かを投げる姿勢で固まっており、さらのその奥に荷崩れを起こした荷馬車が。
どうやら事故で丸太が馬車から転げ落ち、それを受け止める
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