〜???〜
『羨ましい……』
声が聞こえる。いつものように、何も無い空間。暗い空間。
『男の人に声をかけようとした……気付かれて、モタモタしていたら逃げられた。慌てて後を追ったらその人とマンティスが交わっていた……』
浮かんだ景色には背中を向けて逃げていく男の姿。
後を追った先に男に覆いかぶさるマンティス。
『他の人に声をかけようとした……別のアラクネにその人を先に持って行かれてしまった。』
次の景色は、糸でぐるぐる巻きにされた男を連れて行くアラクネの姿。
『なんとか男の人と話すことが出来た……目を離した隙にやっぱり他のアラクネに持って行かれた……。』
誰もいない光景が映る。景色が少し歪んでいた。
『歩いていた人に服を渡そうとしてみた……気付かれずに通りすぎてしまった……。』
男が歩いて行く。自分の手には、白い服が乗っていた。
『他のアラクネ達が男の人と楽しそうに話しているのを見た……羨ましかった。』
楽しそうに話している男とアラクネ。
『誕生日……私の家には、誰もいなかった。知り合いのアラクネは今日デートらしい。』
誰もいない部屋が映し出される。
『勇気を出して男の人を誘惑してみる。大胆な服を着て、精一杯アピールした。』
『でもその人にはもうメデューサのパートナーがいた。男の人は石にされて引っ張られて行ってしまった。』
石になった男を引っ張るメデューサが見える。
『もっと勇気を出して、男の子を押し倒してみる。泣かれてしまって、慌てたら逃げ出してしまった。』
走り去る男の子。視界は若干うつむき気味だ。
『羨ましい……パートナーがいる子が羨ましい……妬ましい……』
ビシビシとひび割れる空間。色褪せる景色。
『そうだ……奪ってしまおう……手に入らないなら……取ってしまおう……』
『ソシテ、ゼンブヲワタシガテニイレテ、ミンナウバッテ、ウバッテ、ウバッテウバッテウバッテウバッテウバッテウバッテウバッテウバッテウバッテウバッテウバッテウバッテウバッテウバッテウバッテウバッテウバッテウバッテウバッテウバッテウバッテウバッテ』
『そして、周りには誰もいなくなる。お前に奪われたくないからな。』
景色がガラリと入れ替わる。ここは、目の前のアラクネの家なのだろう。
『デモ、ソウシナイトワタシハナニモテニイレラレナイカラ……』
『そうか?お前は奪われた奴の気持ちがわからないのか?わからないわけないよな?』
『……。』
俺は言葉を続ける。
『お前は現に何回か目の前の男を奪われている。でもな、それはお前の行動が遅かったがゆえに起こった。』
『努力をした?あれは努力じゃない。ヤケだ。勝負をしたいならありのままの自分をさらけ出せばいいし、抵抗力の低い子供を襲う必要もない。』
『ワタシハ……』
『お前、どうせ自分なんかとか思ってるだろ。自分自身の姿を鏡で見たことあるか?』
俺はイメージする。目の前の全てを映し出す。鏡の存在を。
すると、目の前に姿見が現れた。
『これが、お前だ。綺麗なもんだろ?』
彼女に姿見を見せる。蜘蛛の足が恐怖を誘うが、その上半身は美人と言っても差支えがないほど美しかった。
『もっと自信を持ってみろよ。押しが弱いと思うならその押しの弱さを武器にしてもいいんじゃないか?気弱な美人ってのも結構モテそうだぜ?庇護欲をそそってさ。』
彼女はうつむいている。
『ナラ……』
『ん?』
彼女が顔を上げる。目が、赤く光っていた。
『ナラ、アナタハワタシヲダキシメラレル?』
『そんなもん決まってるだろ。』
俺は彼女に歩み寄り、思い切り抱きしめた。
『こんな放っておくだけで折れそうな奴を、抱きしめられない訳がないだろ……。』
『ア……』
彼女の瞳から、一粒の涙が零れ落ちる。
『もう自分を貶すな。もう自分に縛られるな。お前は、もっと自由に生きてもいいはずだ。』
俺は彼女をさらに強く抱きしめた。
『もし、それでも自分を縛る鎖を付けるというのなら……俺がその鎖を断ち切ってやる。』
『あ……あぁぁ……うぅぅぅぅ』
彼女は俺の肩に顔を押し付けると、涙を流し始めた。
心の鎖に縛られない、自由を噛み締めながら。
『臭かったですよ……セリフ。』
『言うなよ……自覚しているんだから。』
泣き止んだ彼女は、何か汚い物でも見るように俺を見てくる。
『その口先で一体何人の女性を落としてきたんですか?』
数えてません。
『口が上手すぎて……落とされる私のほうが恥ずかしくなってくるじゃないですかぁ……』
真っ赤になって顔を胸に押し付けてくる彼女。
俺の肩を力なく拳でぽすぽすと叩いてくる。
『ときめいちゃった?』
いたずらっぽく言う俺。俺ってこんなに軽かったっけな。
『心臓がドキ
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