第十九話〜囮〜

〜???〜

朝の訓練の後の朝食の席。

『そういやアルテア。おめぇいつまでその喋り方をしているつもりだ?』

おやっさんがそう切り出してきた。

『喋り方と言いますと……これではいけませんか?』
『傭兵がいつまでもそんな喋り方してちゃナメられるぜ?もっとラフな感じに喋ってみろよ』

どうしよう。姉さんには敬語を使えと言われているし、おやっさんには砕けた感じで話せと言われたし。

『へぇ、坊主に話し方を教えようってんですか。面白そうっすね。』
『どうせだからもっとワイルドな感じに仕立ててみない?』

周りのメンバーもどんどん集まってくる……

『あ、あの……お手柔らかに……』

……………………
………………
…………
……



『あぁ、アルテア。資料の整理があるんだが手伝ってもらえるか?』
『おう!わかったぜ姐さん!』

俺が喋った言葉を聞いたとたん姉さんがどこかへとかけ出していく
しばらくすると……

<少佐ぁぁぁぁあああああ!アルテアになんて言葉遣いさせているんですか!>
<いつまでもガキみたいな喋り方させておくほうが問題だろうが。イメチェンだよイメチェン。>
<あんな汚い喋り方になったら愛でられないじゃありませんか!>
<ちょうどいい機会だ。少しは弟離れしたらどうだ?>
<冗談じゃありませんよ!私のアルテアがぁぁぁぁああああ!>

なんて言い争いが聞こえてきた。
結局、俺の言葉遣いは姉さんに一夜漬けで直された。
しかし、一人称の俺と、ある程度男っぽい言葉遣いは治らなかったとさ。

〜AM5:00〜

<ぐっちゃぐっちゃ>

「んぬ……ぁ……」

うっすらと日が登り始める頃。
どこからか鳥のさえずりが聞こえてくる中俺は目を覚ました。
誰が立てているのか粘ついた水音が聞こえてくる。

<ずちゅっぐちゅっ>

むずむずして気持ちいい。
まるで下半身がぬるま湯にでも浸かっているかのような……。

「ふぁ……ん?」


ぼやけた視界が鮮明になってくると……。

「はぁっ、はぁっ♪起きたぁ?」

ピスケスが俺の上に跨っていた。俺の息子を咥え込んで。

『現在時刻AM5:00。おはようございますマスター。今日も爽やかな朝ですね。』

皮肉かそれは。

『鍵は私が彼女に渡しておきました。余計な事でしたか?』
「自覚しているならそれは間違いなく余計な事だろうよ」



〜カフェレストラン『潮騒の幸』〜


時間帯は早朝。
漁に出るのには遅く、一般人が起きだすには早い時間帯。
テラス席に座るのは俺達二人だけだ。
ちなみにこの店はよく漁に出る前の漁師にも利用されているらしく、かなり早い時間でも開いている。
オススメはエビフリッターのパニーニだそうな。

「全く……心臓に悪いじゃないか。なぜそうまでしてくっつこうとするんだ?」
「そうそう、それなんだけどさ、既成事実作ればもう逃げることができないんじゃない?ってことで美味しくいただきました♪」
こいつから逃げきれるか正直不安になってきた。

「ところでさ。」
「ん〜?」

出てきた海藻サラダをつつきながら彼女が聞いてくる。多分費用は俺持ちだ。

「たまにあっくんの近くから女の人の声が聞こえてくるんだけどあれって何?」
今頃気づいたのか。

『初めまして。マスターの戦闘および作戦行動のサポートを行っている自己推論進化型戦術サポートAI『ラプラス』と申します。』
「うわ!?何?どこから聞こえてくるの?」

辺りをキョロキョロ見回すが、女性は彼女しかいない。

「こいつからだよ。この中に……あー、魂だけ入っているようなもんだ。」

椅子に立て掛けた鵺をコツコツ叩く。間違ってはいないよな。うん。

「へぇ……ゴーレムか何かの一種?」
「似たようなもんだ。」

それ以降彼女は大人しく朝食を食べていてくれた。
コーヒーもギルドのよりうまかったなぁ……。



〜縁結びの入江〜

「あれ?だれかいるね……。」

岩陰から覗き見ると、一人の男が岩の近くで何かをしていた。

「望遠モード。」
『了解。望遠モード起動。』

ウィンドウが開き、見ている景色が拡大されて表示される。

「あれは……縄で自分の足を岩に結びつけている……?」
「縁結びってそういう意味じゃないんだけどなぁ……。」

しばらくすると、作業を終えた男は岩の上に座った。

「あれって何しているんだろ?」
「別に何をしている訳でもないだろ。ただ、待っているのかもしれんがね。」

時間が経つにつれて海面が上昇していき、岩に波が被る程度になってきた。

「ねぇ、あの人あのままだと溺れちゃうよ?あそこ潮が満ちると結構深いし。」
「あぁ、そうだな。」

俺はただ、じっとその時を待つ。



さらに時は経ち、男が立ち上がった胸元あたりまで水が迫ってくる。

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