第十八話〜潮風と共に〜

<冒険者ギルド ロビー>

「……(シクシク)」

キサラギ医院に避難する前にギルドの連中に捕まった俺は、ギルドのロビーのいつものテーブルでボロボロに傷ついていた。主に精神が。

あの後キサラギ医院にいるところを捕まって夢の内容を暴露させられた俺は、ニータに抱きつかれ、チャルニやフィーに呆れられ、ミリア女史やギルドの連中にひやかされ、ヒロトに何故か肩を叩かれ、アニスちゃんにロリコンがどういうものかを懇切丁寧に説明させられ、エルファにサバトまで引きずられそうになって、今に至る。

ちなみにラプラスは、『全く』フォローを入れなかった事をここに記しておく。
どうやらあいつの生命を護るという事にこれは含まれていないらしい。

「災難だったわね〜♪」

そう言って俺を覗き込んでくるのは先程の桃髪人魚。

「お前が皆を焚きつけたんだろうが……」

突っ込む精神力さえ残されていない俺はガックリとうなだれるだけだった。

「ていうか……誰だお前は?ギルドではお前を見かけたことは無かったはずだが……」
『図鑑データ照会…ヒット。魚類型マーメイド種メロウ。マーメイド種の中でも特に好色で、男女交際の話題に強い興味を持つ種族です』

「あたし?あたしはここに依頼を持ってきただけよん♪まだ誰も受けていないみたいだから良かったら受けてみてね〜♪」
絶対受けたくねぇ……。

〜クエスト開始〜
―消えたシービショップを探して―
『あたしが住んでいる街の近くにはよくシービショップが立ち寄る入江があるのね?          
でもここ数カ月、彼女達の姿を見た人っていないのよ。                           
このままだとどこか遠くの方へ行ってまで彼女たちに会うか、海の魔物達と人は結婚を諦めるしかなくなっちゃうのね。                                                
そこで、彼女たちが来なくなった理由を調べるか、もし彼女たちが何者かに囚われているなら助け出してあげて欲しいの。                                              
もし希望するなら、報酬に人魚の血を上乗せしてあげてもいいわよ♪                   
                          サンライズハーバー在住海の魔物一同代表 ピスケス』
「……なぁ、依頼ってこれしか残ってないのか?」
「はい、今日は依頼が割と少なくって他の依頼は全て別の人が受けちゃってます」
マジかよ……。
「逃げまわってた俺が悪いとはいえ……よりによってこいつか」
「私としては嬉しいんですよ?アルテアさんがロリコンなら私に目が向く可能性も……」
「黙ってろモブキャラ」
「酷い!?」

改めて依頼を眺める。

「でも基本的にこれって調査だけだろ?しかも報酬に人魚の血が付くっていったら破格の条件だ。もし原因が誘拐犯の集団とかだったらギルドに協力を要請すりゃ助けを呼べるだろうに。何で残ってたんだ?」

「調査を行う場所が水中も含まれていますからね。水中活動手段も必要ですし、向こうにはギルドもありませんから応援を呼ぶのも難しい、行き帰り以外での転送魔法はお金がかかりますからこちらのギルドに応援要請の手紙を送るのも難しいんですよ。そもそもギルドがありませんからギルド間ミミック通信網は使えませんし……」

「なんじゃそりゃ?」

また聞き慣れない単語が出てくる。

「ボクの事だよー!」
「どわ!?何だぁ!?」

いつもギルドカウンター脇に置かれている宝箱の中から女の子が飛び出す。

「ギルド間ミミック通信網担当のシアちゃんです」
「よろしくー!」

いつも何が入っているんだろうと思ったら魔物だったのか、あれは。

「他のギルドに送りたい手紙とか物資があるならボクに任せてね!通信網用の宝箱が置いてある場所ならどこでも物を送れるから!」
『物資転送用のポータルみたいな物ですか。どの世界でも考えることは同じのようですね』
「基本的にこの宝箱以上の大きさの物は運べないけどね〜……でも箱に入る大きさの物なら一瞬で運べるよ!」

そいつは有り難い。

「そいつは冒険者ギルド以外の場所にも設置されているのか?」
「この街だと一部の商会と魔術師ギルドだね。他の街でも大きいギルドや施設なら置いていることがあるよ。しかも冒険者ギルドに所属しているのなら送料はタダ!ギルドが出してくれているから問題なし!」

彼女は胸を張り、ここが最大のセールスポイントだとでも言うように話す。

「使いたくなったらいつでも宝箱を開けてね〜待ってるから!」

自分で蓋の端っこを掴んで、箱の中に入って閉めてしまった。

「……結構騒がしい奴だったな」
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