第十七話〜守護者〜

〜???〜

『私は、マスターを守るために此処にいる』


この空間に来るのも三回目。流石に慣れた。
辺りが真っ暗なのも同じ。景色が切り取られるように映しだされるのも同じ。
どことも言えない方向から声が聞こえるのも、同じだった。


『マスターはこの神殿に何かがあると睨んで、私と此処に来た』


俺達が神殿に来たときはこいつは一人だったが……奥にこいつの主人でもいたのだろうか。


『結果的に言えばそれは当たりで、確かにそこには『何か』があった』


浮かんできた光景は、男が茶色い宝石を拾い上げる光景。あれは……エクセルシアか?


『マスターは私にその拾った『何か』を渡してきた。私の持つ荷物袋に入れさせるためだった』


エクセルシアがゴーレムの手に渡る。


『次の瞬間、私の意識が途切れた。気が付くと、マスターが血まみれになって倒れていた』


浮かんできた映像は先程の男。片腕は無くなり、おびただしい量の血に塗れている。


『マスターは私に言った。自分を守れと』
『程なくしてマスターは息を引き取った。私は、マスターの亡骸を護ることにした』


祭壇の上に寝かされる男の亡骸。


『誰が来ても、私はマスターを護りきった。私の力はあの意識が戻った直後から、驚くほどに強くなっていた』


焼き払われる冒険者達。鋼鉄の拳でミンチになる魔道士。鎧ごと潰される騎士達。


『そのうち神殿には、誰も来なくなった。私はそれでもマスターを守り続けた』


おそらくこの時には神殿は封印され、湖の底へ沈められたのだろう。


『マスターはもう目を覚まさない。私はここを離れない。それが、私の使命』


『私はモウ、ココヲハナレナイ……』



―これでもう三回目ね。―

いつか聞いた声が囁きかけてくる。

―今までは貴方一人でも何とかなったけど、今回はそうもいかないかもね。―

どういうことだ。

―彼女は、貴方がいくら言葉を重ねても、光で照らしても動かないわ。―

お手上げじゃねぇか。

―彼女を闇から引き上げるには、貴方じゃ届かない、だから……―

―彼女の心を動かす『魂』が必要になってくるの―

『魂』?

―貴方ならできるはず。―



―見つけてあげて。彼女の『心』を解き放つ『魂』を―



『マスター……マスター……』
『随分と自分の主人に忠実だな。お前は』

暗い空間が一瞬にして切り替わる。現れたのは、先程の神殿内部。

『自分の意見を持たず、意思を持たず、命令にだけ従う。まるで人形だな……って、人形だったか』

彼女の表情は変わらない。

『ワタシハ、ソレイガイノコトヲシラナイ』
『だろうな。でもよ、自分の主人がいなくなってまでその命令を守り続ける意味はあるのか?』

『マスターノメイレイハ、ゼッタイ。イナクテモ、カンケイナイ』

彼女の思考は、変わらない。

『じゃあ、聞いてみるか?あんたのマスターとやらに、あんたが受けた命令の本当の意味を』
『リカイフノウ』

自分で考えることをしない奴にわかってもらおうなんて考えちゃいない。

『シータ……』
『!?』

俺の後ろから、男が歩いて来る。

『マス……ター……?』
『すまないな、シータ。永い時間この場所に縛り付けてしまって』

男が俺の前に出る。

『私が拾ったアレは、どうやら非常に危険な物だったようだ。人間以外の物に寄生し、その構造を変質させてしまう』

男は続ける。彼女は目の前の光景が理解出来ない様で、完全に硬直してしまっている。

『私がお前に私の守護を命じたのは、お前に取り憑いたそれを世間の目から隠す意味でもあったんだ』

『強力なゴーレムが何かを守っていれば、世間の目は自然と守っている方に行く。守っているゴーレムの方には目を向けずにね』

男はおそらく、エクセルシアの驚異を本能的に察知したのだろう。

『君が人を殺しすぎて神殿が封印されたのは計算外だったけど……今となってはそれもいい方向に働いたのだろう。おかげで、私と君と神殿の存在は忘れ去られた』

『でも、君はもう私を守らなくてもいいんだ。私が危険視していたあれは、彼が抜き去ってくれた』

男はこちらを振り向き、笑いかける。

『君はそれで、何をするつもりなんだい?』
『少なくとも、あんたが危惧しているような事には使わないつもりだ。安心しろ』

男は頷き、再度彼女へ向き直る。

『君は、もう自由だ。自分の意思で、自分の考えで、好きな場所へ行くといい。いつまでも死人の私に縛られているべきじゃない』

『マスター……!ますたぁ……!』

抱き合う二人。
差し込む光が強くなり、男の体が光の粒子に分解され始める。

『いや!マスター、行かないで!』

男は首だけこちらを向けると。

『君にお願いがある。向こうへ戻ったら、
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