第十三話〜孤立〜

〜???〜


またこの空間か……。


『生まれてからこっち……アタシは独りだった……』


暗い感情が伝わってくる。


『周りのみんなはいつも色恋の話ばかり……』


その感情に俺は耳を傾ける。


『そんな一塊の内の一人になりたくなくて……アタシは物心付いた頃から槍を振るっていた』


視界が切り取られ、仲間で話すホーネットの少女達と、輪から外れて一人槍を振るう少女が映る。


『周りは自分たちに合わせろって言うけど……アタシは御免だった』


『アタシだけが違う一人になれば……他とは違う何かが見えるはずだから』


『そんな事もあってアタシは巣では一人孤立していた……最初は気にも止めなかった』


『でも、同じ巣の子達が一人、また一人と相手を見つけていくと……アタシは次第に焦燥に駆られるようになった』


次に現れた光景は、ホーネットの女性と人間の男性が仲睦まじく話している光景だった。
成長した少女は、まだ槍を振って鍛錬を続けている。


『周りの皆は先に自分を見つけている……アタシには、まだ何も見えない』


その光景が、色あせてひび割れていく。


『母様からそろそろ伴侶を見つけなさいと言われた……アタシはその場は了承したけど、恋人なんて作る気はなかった』


豪奢な服を纏っているのは女王蜂だろうか?彼女と話をしている。


『そうこうしているうちに……アタシは焦りの正体に気づいてしまった』


『アタシは……いつの間にかあの一塊の内の一人になっていたのだ』


『それに気づいた時にアタシは……絶望した』


風景がまた一つ追加される。巨大な巣のようなものから飛び立つホーネットの女性。
手には大きな荷物と使い古した槍を持っている。


『アタシはせめて……あの一塊とは同じ場所には居たくないと巣を飛び出した』
『食料は十分あったし、寝場所もその日その日ではあるけれどちゃんと用意した』
『でも、足りなかった。酷く乾く。喉の渇きでも飢えでもない』


さらに追加された光景には、一人横たわり空を見上げるホーネットの女性。


『そんなある日、少し離れた所に男の旅人を見かけた』


真っ直ぐ伸びた道を、帽子を被った旅人らしき人物が歩いている。


『普段は気にも止めないのだが、この時は彼を見たときに猛烈な飢えに見舞われた』
『気づいたら、彼を押し倒していた。自分のしたことに理解が追いついたとき、アタシの目の前は真っ暗になった』


押し倒される旅人、その表情は恐怖に染まっていた。


『所詮アタシは、どこまで行ってもあの一塊と一緒だったのだ』
『もう嫌だった。自然と男を求めてしまう魔物の心が』
『もう嫌だった。本能で男を求めてしまう魔物の体が』
『だから……男を全てコロスコトニシタ』
景色が、空間が色褪せ、ひび割れていく。

『ゼンブコロセバ、モトメナクテスム。ダカラ、コロシテ、コロシテコロシテコロシテコロシテコロシテコロシテコロシテコロシテコロシテコロシテコロシテコロシテコロシテ、コロシテコロシテコロシテコロシテコロシテコロシテ……』



『殺して……どうするんだ?』



『ナニ?』

ひび割れた世界が一気に修復され、どこまでも広がる草原が現れる。

『いくら殺しても男は現れるぞ?それこそ進化が進めば魔物からも男は生まれてくるかもしれない』
『お前は、その魔物すら殺すつもりか?たった一人で』

『アタシハ……』
『その覚悟もあるってか?馬鹿馬鹿しい』
俺は肩をすくめて手をヒラヒラ振ってやる。

『人間も、魔物も増えるんだ。それこそ百人殺せば千人増え、千人殺せば一万人増える。どう見たってお前の手にゃ負えないよ』

『ソレデモ……ソレデモアタシハ!』
『もういい加減にしろよ!』
『!?』
俺の怒号に彼女が言葉を飲み込む。
もうこれ以上、彼女が自分を傷つけようとするのを見ていられなかった。

『なんで自分を否定するんだよ!誰かを求めるお前も!必死に槍を振るうお前もお前じゃないか!』

彼女に歩み寄る。彼女は若干たじろいだようだったが、構わず近づく。

『もうこれ以上……自分を傷つけんなよ……!』
そして、彼女を真正面から抱きしめる。自分の手で自分を傷つけないように。

『ッ!?ハ、ハナセ!』
『離さない』
『コロスゾ!?』
『殺したきゃ殺せ。お前がお前自身を傷つけるのを見るほうが、辛い』
彼女の動きが止まる。体全身が震え、まるで何かに耐えているようだ。

『ゥ……ァ……』
『それでも自分を傷つけると言うのなら……俺がお前を殺して、俺も死んでやる。一人にはさせない』
『ぁ……ぁぁぁああああああ!』
彼女は、自分の心の痛みを自覚したかのように、泣いた。



『落ち着いたか?』
抱きしめたまま髪を撫でる。彼女の涙は既に止まって
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