『ふっ……!ふっ……!ふっ……!』
両手にダンベルを持って上下に動かす。
僕は現在絶賛筋トレ中だ。何故かと言うと……
『30回をカウントしました。小休止に入って下さい』
この重い自分専用の武器を使いこなす為に筋力をつけたいからだ。
この筋トレ+日々のトレーニングメニューをこなすことが最近の日課になっていた。
『はぁ……はぁ……ラプラス、あと何セット?』
『現在3セット目。残り2セットです』
ダイアログに現在の終了セットと残りセットが表示される。
ラプラスの自由会話モードは基本的に使っていない。
研究者曰く、会話を行えば行う程自分の思考や性格に近づいていくそうだ。
それがなんとなく気持ち悪くて極力使用を控えるようにしている。
『本来成長期の肉体を酷使することはよくありません。中止を推奨します』
『だめだよ。少しでも早くおやっさんの役に立ちたいんだ』
そう、僕はまだ拾ってもらった恩を返せていない。
おやっさんの動かしている組織『フェンリル』は民間軍事請負会社……所謂傭兵だ。
僕は戦闘用電子体の扱いが苦手なので、没入中の味方の体を守る任務が主となる筈だ。
筈、というのはまだ作戦行動に出たことが無いからなのだけれど。
『そのためにも体は鍛えておかないと……さ、続き始めるよ』
『了解。カウント開始します』
そうして僕はまたダンベル運動を再開した。
その後、姉さんに見つかってもっと休めとこっ酷く叱られたのは言うまでもない。
〜宿屋『新緑の揺り篭』〜
目が覚めるとそこは見知らぬ部屋でした。
「なんてボケかます意味はねぇよな。おはよう、ラプラス」
『おはようございます、マスター。現在時刻はAM6:00です』
探索を行うのであればこの位の早起きが丁度いい。
荷物を詰めた背嚢と鵺を担ぎ、部屋を出て階下に降りていく。
「おはよう、おやっさん」
「よう、昨日はよく眠れたか?」
「あぁ、ぐっすりと。久しぶりに安眠できた気がするよ」
なにせギルドの宿場では夜になると色々と音が聞こえてくる。
ギシアンとかギシアンとかギシアンとかね。最近は気にならなくなってきたけど。
「ハッハッハ!そりゃよかった!旅先じゃ眠れなくなる奴がいるみたいだがお前さんは無縁みたいだな!」
宿屋の親父さんは一度奥へ引込み、朝食を持ってきてくれた。
「きちんと食って、今日一日頑張れよ!」
「うす!頂きます!」
手を合わせて朝食を食べ始める。
「お前さんはジパングの生まれかい?」
「んぁ?何で?」
トーストにかぶりつこうとした途中で聞かれたので間抜けな声が出てしまった。
「そりゃ手を合わせてイタダキマスなんてジパングの奴らぐらいしかやらないからな」
そういえば俺はどこの生まれなのだろう。
『マスターは日本人の上官に拾われ、育てられました。動作の癖に日本人特有の物が出ることは極めて自然なことです』
こういう場合はどう説明したものか。
「俺はジパングの人に拾われたもんでね。教え込まれたのはみんなジパング流さ」
「へぇ、ジパングの奴らは礼儀正しい奴らが多いからいい事だと思うぜ?あんたは礼儀とかはあんまり関係ないみたいだけどな!」
そう言って豪快に笑う親父さん。どこかで似たような人にあった事がある気がするんだが……気のせいだろう。
〜樹上都市ミーテリア 北口〜
街の出入口はエレベーター式だった。
片方に籠、片方には重さを増減できる錘が付けられ、籠に乗ると、ゆっくりと籠が降りていく。
「これって乗る奴の重さ次第ではあっという間に地面に叩きつけられるよな」
『そこを調整するのが魔術師の腕なのでしょう』
エレベーター1基につき魔術師が一人着き、重さを調整している。
「なんとも非経済的なことだ」
『否定はしませんが、それで経済が成り立っているなら問題ないでしょう』
AIと世間話をしながら俺は街を降りていく。
目指すは樹海の奥地、童話の中の金色のアルラウネの棲家だ。
〜エルドル樹海〜
「鬱蒼としているな」
その森は既に森ではなく、密林とでも呼んだほうがしっくり来るような場所だった。
『人工衛星も飛んでいないのでGPS機能は使えません。移動速度と移動方向を使用した簡易マッピングを使用します』
文明の利器バンザイ。
「それなら道に迷っても無事に帰って来れそうだな。童話の二の舞にはならないだろ」
『川もブッシュも無視して帰還地点へ突き進むのであれば、という条件付きですが』
「……無いよりはマシだ。行くぜ」
『了解。マッピングを開始します』
視界の右上あたりが小さく切り取られ、矢印と村の入口、進んだルートが表示される。
俺は意を決して密林へと分け入って行った。
「苦労、するとは、思ったが!」
足元を覆う草は意外なほどに深い。
「こんなことならマチェットでも持っ
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