第六十七話〜眠り姫〜


灯台下暗しとはよく言ったもので、大事な物程意外なくらい身近な所にあったりする。
ヒントは常に目の前に転がっているにも関わらず、それがヒントとしての体を成していなければそれはヒントとは言えない訳で……気付けないのも無理は無いよな。
それでもこの見落としは今までで一番致命的だったのではなかろうか。
よもやあんな危険なものがあんな所に眠っているなんて誰も思わないだろう。



〜冒険者ギルド ロビー〜

テーブルの上には山と積まれた資料。そのどれもがE-クリーチャーと思わしき目撃例に関するものだ。
しかし、どれもが見間違いやガセネタばかりで全く役に立たない。
最後の一枚に目を通し、ため息を吐きながらどっかと深く椅子に腰掛ける。
目の使いすぎでしぱしぱするな……直接目に映っているウィンドウの操作であれば疲れないというのに。

「全部空振り?」
「あぁ、空振り。」

方々から情報を集めてくれたニータには悪いが、どれもこれも外ればかりだ。
以前のE-クリーチャー討伐から約一ヶ月……有力な目撃情報は皆無だ。
おまけに怪事件という怪事件も聞こえて来ない。
平和なのはいい事だが、これでは何時まで経ってもエクセルシアの回収に乗り出せない。
つまり、任務を果たすことができない。

『次の一つで最後なのですが……事態はそう簡単に上手く行きそうにありませんね』
「最後なのか……そりゃ初耳だ」

あと一つ見つければ肩の荷が……いや、それを持って帰らなければいけないのか。
しかし、最後の一つを見つけた所で俺は……元の世界に帰ることができるのだろうか。
そもそも向こうの世界へ行く方法すら確立していないのだ。
どうやって帰ればいいのだろう。

元より、俺は向こうの世界へ帰ることが出来るのだろうか。ちなみにこれは先程とはニュアンスが違う。
今の俺はあまりにもこの世界に愛着が沸きすぎている。
向こうでは考えられない程の自然に恵まれ、多少なりとも争いはあれども基本的には向こうよりは平和な世界。
その楽園のような世界から争いと汚染にまみれてしまった元の世界へ行くというのは多少なりとも苦痛を感じてしまうのは致し方がなかろう。

「ま、今どうこう考えても仕方がないか」
「何が?」
「何でもない」

訝しげにこちらを見上げてくるニータの頭をくしゃくしゃと撫でてやり、書類をカウンターに返却してギルドを出ることにする。

「気分転換?」
「ん、そのつもりだ」

一緒についてまわるつもりなのか、ニータも一緒になってちょこちょこと短い歩幅で付いて来る。
別に拒む理由も無かったのでそのまま外へと出た。
季節はもうじき冬という時期に差し掛かり、少し肌寒い風が通りを吹き抜けていく。
カラッと晴れ上がった空からは秋後半のやわらかな日差しが降り注ぎ、涼しめの気温と相成って過ごしやすい天気となっている。
どこかからニンニクと甘辛いタレで焼いた焼肉の香りが漂ってくる。恐らくは、市場の方から。
しかし昼食にはまだまだ早い時間なので今はさほど気にする事は無いだろう。

「どこいく?」
「ん〜……どこに行くか」

><ヒロトの所><
<図書館>
<思い浮かばない>



〜キサラギ医院〜

暇つぶしと言えばここ、と言うことでヒロトの病院まで来たのだが……何だか様子がおかしい。
いつもガラガラの待合室は順番待ちの患者(殆どがワーシープやホルスタウロス、ごく少数でミノタウロス)で満席になっていて、手伝いとして呼ばれたのかマロンと数人の魔女が忙しそうにあちこち走り回っている。

「あら、久しぶり。悪いけど今はご覧の有様でまともに相手できないのよ」
「一体何が?」

俺達を見つけたのか、マロンがこちらへと近寄ってきた。
順番待ちをしている魔物は見た感じさほど弱っているというわけではなく、しかしどことなく疲れたような雰囲気を感じる。

「変な事もあるものよね……これ全部不眠症の患者よ」
「なんだって?」

どの魔物も一日の大半は眠っているような種族ばかりだ。
それがこれだけ大量に眠れなくなる……いつか見たような光景だ。

「さ、忙しいから行った行った。暇つぶしなら他所を当たって頂戴」
「あぁ、邪魔したな」

どことなく釈然とせず……それでいて嫌な予感がしながら医院を後にした。

「どう思う?」
『以前ミスト様がE-クリーチャーとして徘徊していた時と状況が酷似しています。なにかしら関連があると見て間違いないでしょう』
「でもあの辺りでの目撃例って今の所皆無だよ?ていうかあるならあたしがまっさきにアルに教えてるし」

何かあるにしても判断材料がまだまだ足りないな……さて、次はどこへ行こうか。

<ヒロトの所>
<図書館>
><思い浮かばない><



「ん〜……咄嗟には思いつかないな」

元々ヒロトの所でだべるつ
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