スーパーの袋を2つ、両手にぶら下げながら少し日が暮れかけた道を目的のアパートへ向けて歩いて行く。
袋の中にはじゃがいも、人参、玉葱……いわゆるカレーの材料が入っている。もう一つはカンチューハイなどのお酒がゴロゴロ。
目的地……古びたアパートの錆びた階段をカンカンと高い音を立てながら上がり、手前から二番目の部屋のドアをノックする。
「はぁ〜い……」
ドアの中からは気の抜けるような女の人の声。ギシギシと軋みを上げながら木目調の塗装が施されているドアがゆっくり開いていく。
中から出てきたのは陰気な顔をした……それでいて一目で美形と呼べる女性だった。
だぼっとした大きめの白いTシャツを着ており、片方の肩がはみ出してしまっている。
「夕飯の材料買ってきたよ、花梨さん」
「あ、よーすけ。入って入って」
通されて入った部屋の中は、やはり『また』散らかっていた。
「もう……昨日片付けたばかりなのにまた散らかして……」
「だってぇ、いちいちゴミ箱とか洗濯機まで行くの面倒なんだものぉ」
軽くため息を吐きながらスーパーの袋をかろうじてスペースのある台所へと退避させ、台所の床に散らばったチューハイやビールの缶(一晩でこれだけ飲んだのだろうか?)を軽く潰してゴミ箱へ放り投げ、ベッドの周りに落ちている脱ぎっぱなしの服を洗濯物籠へ放り込む。
そしてふと、入れた洗濯物の種類を思い起こして嫌な予感がした。
「花梨さんちょいこっち」
「なぁに〜?」
ふらふらと近づいてきた花梨さんのだぼだぼのTシャツをまくり上げる。
はたして、その下にあった下半身は……
─何も着ていなかった─
殻を剥いた茹で卵のようにつるりとした丘に縦スジが走り、丘を二分している。
文字通りまっぱである。何を考えているのだこの人は。
「よーすけ、えっち」
「男が来るのに下着も何も付けないでTシャツ一枚でふらふらする人に言われたくないよ」
せめて下着だけでも着させようとタンスを漁って丸め込まれた……というより、僕が片付けた下着を彼女へと軽く放ってあげる。
とりあえず散らかっているのが衣服とゴミ程度だったので片付けは終了。掃除機……は無いから箒とちりとりで掃除して、あとは夕飯の仕度を……
「よーすけ」
「何?花梨さん」
「パンツ履かせて」
「………………」
事の始まりは1週間程前になる。
学校の帰り道、いつもとは違う道で帰ろうと寄り道をした時の事だ。
「……ん?」
進む先の脇道の路上を見ると、地面に人の手が。
面倒な事に巻き込まれそうだ、と思ったけれどこのまま見て見ぬふりをするのも寝覚めが悪い。ということでとりあえず様子を見るために近づくことに。
「大丈夫です……か……」
そこには路上で車に轢かれたカエルがごとき恰好で倒れている女性がいた。
長く伸ばされた髪が辺りに広がっており、下手をするとB級ホラー映画などより恐ろしい光景である。
「も、もしもーし」
屈んで軽く肩を揺すってみると、かすかに呻いて反応を返してくる。
そして、吐く息がやたらお酒臭い。
「ぅ…………」
「意識はある……かな?」
このまま轢かれたカエル状態にしておいても見た目が悪いので抱き起こす。
そして、彼女の顔に一瞬見とれてしまった。タレ目気味で目に隈までできているものの、顔そのものはものすごく美人だった。
「……き……」
「き?」
微かにだが、彼女が口を動かす。もっとよく聞き取ろうと口元に耳を近づけると……
「きもち……わるい……」
「……へ?」
ガシィッ!という音が聞こえそうなぐらい強い力で肩を掴まれる。
振りほどくこともできず、彼女が顔を僕の胸元へと押し付け、そして……
ナイアガラリバース
その後、吐瀉物とアルコールの匂いに苛まれながら彼女の曖昧な案内の元アパートまで連れて行き、泥酔してまともに体を動かせない彼女を風呂に入れて(無論リバースされた僕も一緒に入れてもらい)、ゴミ屋敷と化した部屋の中を片づけ、ついでに冷蔵庫の中にかろうじてあった野菜と米を使ってその日の夕食の雑炊を作ってあげたのが一週間前の事の顛末だ。
一緒に風呂に入ってドキドキしなかったのかって?
例えどんなに美人であろうと道端でカエルプレス状態の女にゲロ浴びせかけられた時点で女性と見る選択肢は消えていると思うんだ。
それからというもの、その日から通い妻(夫?)状態になって彼女の身の回りの世話などをしている。
コトコトと鍋の中の黄褐色の液体が泡を立てて煮立つ。
こうして聞くとなんだか怪しい物を作っているみたいだけれど、実際に作っているのはただのカレーだ。
炊飯器──僕が来るまではホコリを被っていた──からは白米が炊けるいい匂いが漂ってくる。
キッチンからさらに奥、居間では花
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