第九話〜母〜

〜???〜

『欲しい……』

何だ……?

『赤ちゃん……私の……』

ここは何処だ?声だけ……。

『欲しい……欲しい……』

いきなり視界が切り取られたように様々な光景が流れていく。

手を繋いで買い物を楽しむ親子。
息子に本を読んでやる父親。
赤子に乳を与える母親。
出店で買ったお菓子を子供と半分にして食べる母親。
娘と一緒の布団で眠る親子。

そこにあった景色は全て、親子のふれ合いだった。どれもが幸せそうに微笑んでいる。

『でも……なんで……』

その光景が色褪せ、ひび割れていく。

『なんで……できないの……』

新たな光景が浮かび上がる。

組み伏せられた男が犯されている。
年端も行かない男の子がなれない快楽に顔を歪めている。
傷ついた男が下で喘いでいる。

『なんで……なんで……なんで……なんで……』

次々と景色が色褪せ、ヒビ割れ、崩れ落ちていく。

『憎い……恨めしい……妬ましい……』

色もない空間がひび割れていくのが解る。

『憎い……にくい……ニクイ……ニクイニクイ憎いニクイニクイニクイニクイニクイニクイニクイ憎いニクイニクイニクイニクイニクイニクイにくいニクイニクイニクイニクイニクイニクイニクイニクイニクイ憎いニクイニクイにくいニクイニクイニクイニクイニクイニクイ憎いニクイニクイニクイニクイニクイニクイニク憎いイニクイニクイニクイニクイにくいニクイニクイニクイニクイニクイニクイニクイニクイニクイニクイニクイニクイニクイニクイニクイ憎いニクイニクイニクイ憎いニクイニクイニクイにくい』

このままではダメだ……!彼女が……彼女が壊れてしまう!
しかし、声が出ない。いくら叫ぼうとしても、呼びかけても、声帯自体が無いかのように静寂を保っている。
助けたい……助けたい……助けたい!

―助けたい?―

当たり前だ!

―助けてどうなるの?彼女は人殺しだよ?―

でも彼女はそんな事望んじゃいなかったはずだ!

―貴方に何がわかるって言うの?―

わかるわけねぇだろ!

―じゃあなんで?―

今、目の前に壊れそうな心があるんだ!それを……それを……。

―……―

見捨てる事なんてできるか!!

―そう……。―

―なら、簡単だよ。―

―貴方には、その光り輝く『心』があるじゃない。―

―それで、彼女を照らしてあげればいい。―

―心の『闇』を打ち払うのは、同じ心の『光』―

―願って……貴方にはそれができるはず……―



『ニクイ……ウラメシイ……』
『コワス……シアワセ……ゼンブ……』

打ちひしがれる彼女の背中は、狼人間の時とは比べ物にならないぐらい小さかった。

『ゼンブ……コワス……ミタクナイ……キエロ……』

『いくらなんでも短絡的すぎなんじゃねぇか?』
『!?』

辺りが一気に明るくなる。現れた光景は、どこにでもあるような森の中だった。

『別に今すぐじゃなくったっていいだろ?いいパートナーでも見つけて、ゆっくりのんびり。そりゃ子供は可愛いし、すぐに見たい気持ちも分かるけどさ』

労るように、癒すように、ひび割れてしまった彼女の心を包み込む。

『でも、二人が協力して作った子供ってのは何にも代えられないような宝になるはずだぜ?無理矢理、子どもだけ欲しいなんて寂しいじゃないか』

その小さな背中を抱きしめ、諭す。

『焦る必要は無いさ。パートナー探しだって、子供だって。結果も大事だけどさ、過程だって大切だぜ?』

『だから、消えろとか見たくないとか……そんな事言うなよ……。時間がかかっても諦めるなよ……』

抱きしめる腕に力を込める。壊れそうな心をこの場に繋ぎ止めるように。

『いいの……?私……諦めなくても……?』

彼女の瞳から、一滴の涙が流れ落ちる。

『手段を選ばないって言うなら俺は止めるぞ?きちんと手順を踏んで、それで子供をもうけるって言うならば俺は反対しない』

『じゃあ……じゃあ……』

振り返ってこちらを見上げてくる。その瞳は今にも泣き出しそうなほどに潤んでいて……。

『私と赤ちゃん……作ってくれる?』

ここで断るのは、男ではなかった。

『君がそう望むならば……』



『ん……ちゅ……んむ……』
彼女の後頭部をさすりながら口付けを交わす。

『はむ……くちゅ……あむ……』

彼女はこういったスローテンポな交わりは知らないのだろうか。動きがぎこちない。
こちらがリードをしてあげるため、彼女の身体を触り始める。
肩、腕、乳房、脇腹、腰、股の間。快楽を得るための愛撫ではなく、お互いの心の距離を縮めるための愛撫。

『ん……あ……』

口づけを頬に、鼻に、瞼に、耳に。

『くすぐった……あふ』

尻尾に指を絡ませ、撫でさする。

『尻尾だめ……はう』

股間に指を這わせ、当たらな
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