結婚は人生の墓場だとはよく言う。
俺はまだ結婚は考えていないし、自分の事だけで精一杯な訳だから「結婚なんてどうだ?」などと聞かれても「落ち着いたら考える」としか返し様がない。
ただ……結婚を断るのがこんなにも大変だとは夢にも思わなかった。
〜冒険者ギルド ロビー〜
雷が落ちたかと思うほどの大音量と共にギルドのドアが開かれる。何事かと目線を向けるとそこには息を切らせて立っているミストがいた。
ズカズカと中へと入って来てむんずと俺の首根っこを掴むと問答無用でギルドの外へと引きずっていく。……ってちょっとまてぃ!
「ちょ、ミスト!?いきなり何をする!?」
「何も言わずに来てくれ。大変な事になった!」
かろうじて足の先で鵺のストラップを引っ掛け、手元へと引き寄せる頃には既にギルドの外まで引っぱり出されていた。
かろうじて体勢を整えて立ち上がり、事情を聞きながら旅の館へと足を進める。
『きゃー、ひとさらいー』
「棒読みで言っても説得力ねぇっての。何があったって言うんだよ……もう」
「先日貸し出して貰った鎧の事で大騒ぎになってしまった……収拾を付けなければ騒ぎが膨れ上がってしまう!」
ミストが借りた鎧といえば……なんだったか、あの白い鎧の事か?
「あの鎧がどうした……ってまさか、失くしたんじゃないだろうな?」
「失くした程度で済むのであればどうにでもなる。作ればいい……問題はもっと別の所にある」
足早に進んでいるが故かあっという間に旅の館まで着いてしまった。詳しい事情説明も無いままだ。
「別の所?」
「いつかはこうなるだろうと……いや、私自信こうなる事を望んでいなかった訳ではないのだが……」
手早く手形のようなものを受付に渡すと殆ど足を止めること無く一つの魔方陣まで進んでいく。その魔方陣は他の物とは違い、陣の前に看板が立てられていた。
『魔王城城下町直通』、と。
「お前と私の縁談が推し進められてしまっている。このままでは数日中に場所を問わずに結婚式が挙げられてしまうぞ!」
「な……」
「なんですとぉぉぉぉおおおお!?」
〜魔王城城下町〜
「ちょ、もっと詳しく説明しろよ!」
「エンゲージ・ガードを借りた際にある書類が混ざっていた……」
紫色の空の下、いろんな魔物で賑わう城下町を突き進んでいく。目的地はミストの所属する騎士団の詰所だ。
「結婚宣誓書だ。その宣誓書に署名した際に対象と1ヶ月以内に結婚式を挙げないと……」
「挙げないと……?」
困ったような、しかし嬉しそうな声色で告げる。本来は祝福すべき、しかし俺にとっては投獄宣告にも等しい事実を。
「そこがいかなる場所であろうと……例え戦場であろうとお構いなしに私の所属する騎士団が押しかけて私とお前の結婚式を全力で挙げる事になる……!」
「……ゑ”!?」
つまり……俺が朝のコーヒーを飲んでくつろいでいる時に山ほど軍が押しかけ、強制的にミストと結婚させられる……?
もしその場にフィーやエルファがいたりしたら……
「最悪血が流れないか!?」
「団長がお遊びで作った決まりがまさかここまで自分の首を締めることになるとは……迂闊だった」
とは言えこいつは結婚することに反対なのだろうか。
何も言わなければエスカレーター式に俺と彼女は結婚することになっていた筈なのだが……
「で、強制的に結婚することになるのであればこっちから行って挙げてやるって話なのか?」
「いや、この話を取り止めさせる。望まない訳ではないがまだ時期尚早だ」
苦虫を噛み潰したような表情でそう告げる彼女。まぁ本人にとっても不本意であればそうなる……のか?
「アルテア、お前には成すべきことがあるのだろう?その妨げになるのかもしれないのであれば……私はそこまでしてお前と結ばれたくはない」
「ミスト……」
あれ、なんでだろう……目からしょっぱい汁が……。
「そういうことは全てに片が付いてからでいい。お前は……自分の成すべきことを成すんだ」
「ありがとう、ミスト……」
あぁ、なんだかんだで彼女も俺の事を考えてくれているんだな。
普段から情熱的で行為に及んだ時にはギブアップしてぶっ倒れるまで絞り尽くすような彼女だけれどいざという時にはかならず守ってくれるのだ。
「だから、お前の用事が済んだ時に改めて求婚させて欲しい。その時は必ずお前と結ばれてみせる」
「……うん、やっぱそうだよな。そう言うと思ったよ」
改めて思ったね。逃げられないって。
「んで、取り下げる為にはどうしたらいいんだ?」
「至って単純な話だ。私が所属する騎士団全員を反対人員全員で叩き伏せればいい。」
「そう、か。んで、反対している奴は?」
「私とアルテアの二人だ」
「……念の為に聞くが賛成派は?」
「……一個連隊、私の
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