AM7:30
僕がいつも起きる時間。いつもであれば……たとえそれが夏休み明けでいつもの感覚が戻っていないとしてもある程度は爽やかに起きられた筈。
そう、筈だったんだ。
目覚まし時計の音を聞きつけて廊下からドタドタという足音が聞こえてくる。この時点で先に見える憂鬱な出来事が簡単に予想できた。
「ようくーん!朝だよー!文化祭の準備いこー!」
部屋の中に姉ちゃんのメガホンクラスの叫び声が響き渡る。
寝起きの頭がガンガンと揺らされて若干気分が悪くなった。
「……姉ちゃん、目覚ましが鳴るまで待っていてくれるようになったのは有難いけどできればその大絶叫で起こしに来るのもやめてもらえないかな?」
「だって早くしないと朝の準備が終わっちゃうよ!そうなると放課後まで悶々とした気分を抱えながら授業受ける事になるんだよ!?」
始業式からこっち、文化祭があると聞いた日から姉ちゃんのテンションが天元突破し、宇宙の果てまで到達した。
そしてその翌日の朝五時に叩き起こされ、無理やり着替えさせられて学校まで全速力で走らされ、閉まっている校門の前で待たされたのが5日前。
というか、そもそも準備はそのその日の5日後ぐらいから始まる予定だったのだ。当然朝練の連中も含めて学校には誰も来ていない。
その日の懇願(と言う名のかわいくおねだり。死ぬほど恥ずかしかった)の甲斐あって一昨日には七時半までは待っていてくれるようになった物の、やはりそのままのテンションで部屋に突撃して来るのだから始末に負えない。
「そもそも朝早く来てまで文化祭の準備に奔走する人なんていないし、授業も半日で終わって後は準備に当てられるよう授業時間も調整してあるから放課後まで待つ必要無いし、準備の資材を買い出しに行く店は10時まで開いていないし、ついでに言うのであればいくら大声を上げながら僕の部屋に突入したとしても出発する時間は変わらないからね?」
「ぶーぶー!」
いくら頬をふくらませてブーイングしたとしても何もかわりませんよ姉ちゃん。
───────────────────────────────────────────────────────
姉ちゃんと一緒にホラー映画を見る。
─ヴぉぉぉぉぁぁぁあああ……─
「ひっ!?」
「…………」
─ぁ“ぁ”ぁ“ぁ”ぁ“あ”あ“あ”あ“あ”─
「怖いよ〜!よう君こわいよ〜!」
「…………」
そんな事より姉ちゃんが強く腕を締め付けてくるせいで僕の腕がホラーっぽくなっている。
これ以上絞め上げられたらホラーを通り越してスプラッターになりそうなのだけれどどうしたものだろう。
───────────────────────────────────────────────────────
「……姉ちゃん」
「なぁによう君?」
ズカズカと早足で通学路を進んでいく姉ちゃん。
元々モデルもビックリなスタイルの持ち主である姉ちゃんが全速力で歩くとその歩幅も相まって滅茶苦茶速い。まぁそれはいい。問題は……
「周りの視線が痛いです」
今の状況を客観視してみると、『地味ブサ女子高校生に男子が腕を組まされてものすごい速度で引き摺られている』という状況に。一体何があったんだと僕ですら聞きたくなる。いや、むしろ関わりたくなくなる。
「細かい事は気にしない!」
「全然細かくありませんけどね」
自分の足で立って走ろうとしても姉ちゃんの歩幅の方が長く、簡単に足がもつれて再び引き摺りに。僕は首を咥えられて連れて行かれる猫の子供か。
「姉ちゃん、自分で走りたいから手を離してもらえないかな?」
「ん、そう?それじゃあはい」
そう言うとあっさりと手を離して開放してくれる姉ちゃん。いつも以上に聞き分けがいいなぁ……
「それじゃ、れっつごー!」
そう一言言うと凄まじい速度で……それこそボルトも真っ青な速度で走って行ってしまった。
「どう着いて行けって言うのかなぁ……」
というよりあれで手加減してたんだ……。せめて人間の範疇を超えた身体能力は発揮しないでね。後で言い訳して正体を隠すはめになるのは僕なんだから。
───────────────────────────────────────────────────────
姉ちゃんは自分の正体を隠すことに関して割りとズボラだ。
「ようく〜ん♪」
「くぁwせdrftgyふじこlp;@!?」(※学校の二階の窓です)
「それでね〜」
「(尻尾で荷物を持つなぁぁぁあああ!)」
「学校疲れた〜……」
「(浮いたまま移動しないでぇぇぇぇええええ!)」
気苦労が絶えません。
───────────────────────────────────────────────────────
「ねぇね
[3]
次へ
ページ移動[1
2 3 4 5]
[7]
TOP [9]
目次[0]
投票 [*]
感想[#]
メール登録