第六十六話〜決着〜


自分に宿敵は存在しない。そう思っていたのはいつの頃の自分だっただろうか。
別に自惚れていたとかそういう話ではない。確率論の話だ。
例え戦場で痛み分けに終わっても次の日に誰かに相手が撃ち殺されているなんて話はザラにある。
故に敵同士として戦うのは一度切り。同じ戦場で相まみえる事はほぼ二度と無い。
そんな俺に宿敵と呼べる相手ができたのは幸運なのか不幸なのか。
どちらにしても野放しにしておけない相手である以上、いずれ決着は付けなければならない話なのだが。



〜早朝 冒険者ギルド ロビー〜

今日も一日が始まる。アニスはまだ寝ているけれど依頼によっては朝早くに出発しなければならないような物もあるのでギルドの朝は意外と早い。
宿舎に続くドアの鍵を開け、ロビーの中へと入っていく。

「あ、ミリアさんおはようございます!」
「あら、おはようプリシラ。今日もお願いね」
「は〜い!」

顔なじみの従業員と朝の挨拶を交わし、ロビーの中に足を踏み入れる。
それと同時に襲い掛かってくる違和感。
明らかに、人の気配がある。

「ミリアさん……」
「侵入者……かしら。気をつけて」

いつでも迎撃できる体勢を整え、注意深くロビーを進んでいく。
受付が見える所まで来た時、私とプリシラの背筋が凍りついた。
宝箱から……半裸の男がはみ出して倒れている!

「「ぎゃぁぁぁあああああ!!」」

………………
…………
……

「いやはや……ひどい目に遭ったぞ」

凝り固まってしまった首筋をゴキゴキと鳴らして朝一番のコーヒーをすする。殆ど徹夜明けの頭に染み渡るね、カフェインが。

「正直寿命が1年ぐらい縮んだわよ……」
『あなた方の寿命が1年縮んだとしてもさほど影響は無いのでは?』
「うるさいわね。気分よ気分」
「それにしても……一体何があったんですか?」

それを説明するには昨日の夕方頃まで遡る。



あの時俺はクエストから帰ってきて報告を済ませ、さて何か夕飯でも食べに行こうかなどと考えていた訳だ。
するとカウンター脇の宝箱が唐突に開いたんだよな。
この宝箱が前触れも無しに開くと大抵ろくなことにならないから咄嗟に回避した訳だ。
案の定中からシアが飛び出してきて数瞬前に俺の体があった場所に抱きつきを敢行していた。

「毎度お前はびっくり箱みたいな奴だな」
「逃げないでよぉ……いきなり抱きつこうとしたのは悪かったからさぁ」

その言葉を言うのは何度目だと。俺が側を通りかかるたびに引きずり込もうとしやがって。

「それはそうと何の用だ?これから飯食べに行こうと思っていたから手短に済ませてくれると有難いんだが」
「その夕飯をボクが提供する、って言ったらどうする?」
「頂こう」
『即答ですか』

食える時に食う、それがタダ飯なら尚更だ。何を迷う必要があろうか。

「それじゃあ一名様ごあんな〜い」

そう言うと身を詰めて宝箱の中に俺一人が通れるぐらいの隙間を空けるシア。
もしかしなくても……

「その中か?」
「そう♪」

あからさまなトラップもここまで堂々としていると逆に清々しいな。
そんな罠に俺が引っかかると思っているのか?

「んじゃ行くか」
「いらっしゃ〜い」
『せめて私は置いて行って下さい。誰かしら状況説明が出来た方が良いでしょう』

今思えばこいつは巻き添えを避けようとしてああ言ったのではなかろうか。
かくして俺はシアにご馳走された自炊の夕飯(媚薬入り)をたらふく食べ、罠に嵌ったと気づいた時にはシアに跨られてさんざん搾り取られ、このままでは余生を一生宝箱の中で過ごすことになると危機感を抱いたので逆にシアを気絶するほど絶頂させて拘束が緩んだ隙に這々の体で空間の中から這い上がり、宝箱から上半身をなんとか出した所で力尽きたのだった。



「まぁそういう訳だ」
「貴方って食欲に関しては全然自制が効かないのね……」

いやはや、お恥ずかしい。何しろ一度密林で餓死しかけた身としてはそこに食い物があるのであれば無視はできない性分になってしまったのだ。
俺をなんらかの手段で殺すのであれば真正面から銃で撃ち殺すのではなく食い物に毒を入れたほうが楽なのではなかろうか、というぐらいに。

「アルテアさ〜ん。朝食できましたよ〜」
「おう、今行く」
「「まてぃ!」」

同じ手に二回引っかかりそうになった俺をミリアさんとプリシラの二人がかりで止められ、その日の漫才はこれで終了。
……薬が入っていたとしても食べたかったな。



〜クエスト開始〜

─廃ダンジョンの再調査─
『今回もギルドの情報部からの依頼よ。なんでも数百年前に廃棄されたダンジョンが現在安全かどうかを確かめて欲しいらしいわ。
このダンジョンは過去に牢獄として利用されていて、無数の囚人がここに投獄されていたの。でも性質の
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