6月13日 僕と姉ちゃんと雨の日と

カチカチと時計の音が静かな室内に響いている。外ではしとしとと梅雨に降る静かな雨が窓から見える景色を濡らしている。
その他の音と言えば僕がリビングのテーブルでノートにシャーペンを走らせる乾いた音と、姉ちゃんが寝返りを打つたびに聞こえる衣擦れの音だけ。
何も話さないからといって喧嘩をしている訳ではない。ただ単に僕が課題に集中しているだけ。
姉ちゃんも流石に勉強をしている僕の邪魔をする事もなく……

「ようく〜ん!暇すぎるよぅ!かまってかまってかまってかまってかまってかまってかまってかまってかまってかまって〜!」

前言撤回。この人はこういう時に限ってやたらちょっかいを掛けてくる人だった。
背後から抱きついてガクガクと前後に激しく揺さぶられる。
体が前後に揺れるたびに背中に柔らかいものがががが

「ほらほら、ボール投げてあげるから取りに行って来なさい」

靴下を丸めたボールを部屋の隅へ投げてあげる。

「わ〜い!……って、わたしは犬じゃないよ!?」
「猫のつもりだったんだけど」
「あ〜、猫かわいいもんね〜♪って、そうじゃなくて」

どうやら姉ちゃんにとっては余程この退屈は堪えるらしい。

「しょうがないな……それじゃ、この季節の取って置きの場所にでも行こうか」
「おでかけ!?行く行く!ちょっとまってて!」

目をキラキラと輝かせて自室に駆け上がっていく姉ちゃん。どっちが年上なのか今一度問いたくなる。
僕はと言うと廊下に掛かっている外出用バックパックに勉強道具一式を詰め込んで玄関で待つ。気に入って静かにしてくれるといいんだけどな……

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Gが出た時に姉ちゃんがその場にいると……

「……」

人差し指をGに向けて何かをつぶやく。
次の瞬間にはGが灰になっていたり……。
当然見なかった事にした

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以前映画館に行った時の服装で出てきた姉ちゃんと一緒に雨の街を傘を差して歩く。
行き先はアラビアだ。……別に海外に行くわけではない。喫茶店の方。

「喫茶店?」
「ん、この季節のあそこが一番好きなんだ」

駅前の商店街から少し離れた場所にある静かな佇まい。
おしゃれな木製のドアを押し開けて入るとカラカラと耳障りの良いベルが来訪を告げる。

「いらっしゃい……あぁ、よう坊か。いつもの席は空いてるよ」
「ありがと、玲衣奈さん。僕はいつもので……と、姉ちゃんは何にする?」

喫茶店の窓際のボックス席につきながら姉ちゃんにメニューを渡す。
ここに来ても基本的にコーヒーぐらいしか頼まないので、あまり見ないんだよね。

「よう坊のお姉さん、ね。」
「初めまして。『よう君の』姉です」

なぜそこで僕を強調するのだろうか。しかも玲衣奈さんの目もどこか笑っていないような気がする。

「玲衣奈だ。この喫茶店のマスターで、よう坊と『個人的に』親しくさせてもらっている」

おかしいな……何この空気。というか玲衣奈さん?僕は貴方とそこまで親しくなった覚えが無いのですが。
このままにらみ合いをさせていても埒が明かないので、姉ちゃんには僕と同じものを頼んで彼女には下がってもらった。

「お姉ちゃんわかるよ。あの子絶対よう君を狙ってる」
「え〜……?」

あの人は絶対僕のことをからかっているだけだと思うんだけどなぁ……
あの人かなり美人だから彼氏がいないなんて思えないし。からかうたびにご満悦になるし。

「今度からここに来る時は絶対お姉ちゃんも連れてくること!いい?」
「なんでそうなるのさ……」

僕はこの先もこの姉ちゃんに知人関係をすべて管理されながら生きることになるのだろうか。
彼女の本当の姿が見える人に出会えればいいのだろうが、なんの運命の悪戯かその相手は僕なのだから始末に負えない。
ばらしてもばらさなくても彼女の性格上同じ道を辿るのだろうなぁ……。
唯一の幸いは僕が思いを寄せる相手がいないという事だろうか。
多分この姉は僕に好きな人ができたら真っ先に嗅ぎつけて抹殺に掛かるかもしれない。できればその方法に物理的な手段が加わらないことを祈ろう。

「所で……ここのどこがよう君は気に入ったの?確かにお洒落な喫茶店だとは思うけど……」
「窓の外。見てみなよ」

僕に言われて窓の外に目線を向けた姉ちゃんがハッと息を飲む。
そう、僕はこの季節の雨の日の……この窓から見える景色が好きなのだ。

「紫陽花……?」
「ん……綺麗でしょ?」

しとしとと降る雨に色鮮やかに咲いた紫陽花が濡れ、その雨粒を弾いている。
時偶店の前を通る車が発するタイヤの音がその景色にアクセントを加える。
店の中に流れるジャズを聞きながらコーヒーを啜
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