幕間〜彼女はどこから来たのか〜


〜冒険者ギルド ロビー〜

既に定位置となっているテーブル。向かい側には自分より背の高い椅子に座って脚をぶらぶらさせながらメイがクッキーを美味しそうに頬張っていた。
やはり子供舌なのだろうか、彼女は甘い物やハンバーグなどが大好物だ。

「なんだかんだでこいつももう大人の女なんだよなぁ……こんなナリしている癖に」
『マスターが強く拒めば問題なかったのでは?』
「うっせぇ。あれは事故だ事故」

まさか体の洗いっこしている内にそんな事になるなんて思わないじゃないか。相手は5歳だぞ?5歳。

「……あれ、何かおかしいぞ?」

確か……魔物の生殖活動の最下限は10歳……なのにメイの年齢は5歳……?

「メイ、お前歳は本当に5歳で合ってるんだよな?」
「う〜?」

どこかぽかんとした表情でクッキーから口を離して眠そうな目をするメイ。
俺の言った事を理解できているかすらわからない。
結局興味が無くなったのか再び持っているクッキーに齧り付きはじめた。

「まいったな……これじゃ確認できないじゃないか」
「どうしたッスか?アニキ」

なんとも言えない気持ちで頭を掻いているとどこからかゴブ3の長女がちょこちょこと俺の側まで寄ってきた。他の二人は向こうでコロコロと丸い玉を転がし合って遊んでいる。

「あぁ、メイの年齢なんだが……こいつ5歳で合ってるか?」
「5歳?まさか、そんな子供じゃあないッスよ」

なぬ?

「正確には親分が幾つになるのか誰もしらないッス。あっし達と出会ったのが今から……20年近くも昔ッスかね?道端でぼんやり空を眺めながらお腹を鳴らしていましたからよく覚えてるッスよ」
「つまり……別にこいつはお前らと血縁関係にあるわけじゃ無いってことか?」
「正直言って身元不明ッス。親が誰なのか、今どこにいるのか、そもそも本当の名前すら分からないッスよ。」

背筋に薄ら寒いものが走る。目の前にいるのは今までただのプニバインだと思っていた。
しかし……こいつは、何だ?

「アニキ、親分の身元がわからないからって嫌わないであげて欲しいッス」
「まさか。こいつには何度も命を救われている……今更嫌うなんて出来る訳が無いだろう」

そういえば俺も元々は身元がほぼ不明なのだ。研究機関で何かしらの調整を受けたクローンという事以外は不明……なら俺とこいつはある意味では似た者同士なのかもしれない。



〜クエスト開始〜
―遺跡調査―

『新規発見されたダンジョンの改装工事の為に危険の有無を調べるため、遺跡内部の調査を行って欲しい。                                                      
調査項目は致死性トラップの有無・内部の詳細な見取り図、細菌などの生物災害の調査となっている。                                                         
内部にどのような危険があるかわからないので、威力偵察が可能な人員を求む。          
                                              冒険者ギルド情報部』

「威力偵察、か」
「未知の危険がある場所なんかでは良く依頼が回されたりしますね。既知の危険や教会領であれば普通はシーフギルドが請け負うんですけど戦闘に巻き込まれたら不利ですからねぇ」

何があるかわからない以上個人の戦闘能力が必要になってくるって事か」

「受けますか?」
「あぁ、頼む。他にはこれといって良さそうなものがないからな」

プリシラにクエスト受理の手続きをしてもらっていると、足元へちょこちょことメイが近付き、ズボンの裾をくいくいと引っ張って来た。

「ん、メイも行くか?」
「あにぃと一緒〜♪」

と、言う事らしい。
いくら筋力が強化されているとはいえ、彼女には遠く及ばない。
そうであれば力任せに何とかしなければいけない状況になった時に彼女が付いているのは心強いだろう。

「プリシラ、メイも追加で頼む」
「は〜い。お連れの方達はどうしますか?」

ゴブ3はというと……

「親分の邪魔はできませんからアタシらはこっちで待機しているッスよ。」
「そうかい。んじゃ、留守を頼んだ」

何か気を効かせたのか一緒に行くつもりは無いらしい。
俺としても4人も同時に子守をしながら依頼をこなすのは面倒なので助かるが。

「受理が終わりました〜。場所はモイライ東の駅馬車中間地点近くの遺跡ですね。」
「了解。んじゃ、行くか」

メイがごそごそと自分の私物入れである木箱を漁っている。
御目当ての物を見つけたのか木箱の中からそれを引っ張り出す……って、それは……

「ガーディアンの得物か、それは……」
「おきにいり〜♪」

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