暗く静まり返った部屋の中。真上では姉ちゃんが静かな寝息を立てている。
探しているものはなんとか見つかったものの、このままでは部屋から出ることすらままならない。なぜこんな事態になっているのか……
事の起こりは今朝まで遡る。
携帯電話に着信。ハレハレユカイって事は……晴彦か。どうしよう……出ようかな。でも面倒臭い。
それでも出なければ後々もっと面倒な事になるだろうからやはり出ておいたほうがいいかな。
「はいもしもし、この携帯は現在使われておりません」
『いやいや、思いっきり電話に出ておいて使われていませんはないだろ友よ』
「軽いジャブじゃないか。何か用?」
スピーカーから不気味な含み笑いが聞こえてきたので無言で通話を切る。
数秒もしない内に再びハレハレユカイが鳴り響いた。
『いきなり切るなよ!』
「ごめんごめん。あまりに気持ち悪かったから思わず切っちゃった」
『そこはせめてオブラートに包めよ!?』
「あまり聞きたくない声が聞こえてきたから思わず切っちゃったんだ」
『大して包めてねぇよ!?』
受話器の向こうがわからハァハァと気持ちの悪い息遣いが聞こえてくる。
もう一回通話を切ろうとパワーボタンを……
『待て、切るな。流石に2回目は冗談にならない』
「チッ」
『……今舌打ちしなかったか?』
「気のせいだよ。それより用事は何?」
そこでようやく本題に入る。僕と彼とのやり取りはいつも大体こんな感じだ。
『お前、今すぐ着替えて『アラビア』に来れるか?』
アラビアというのは僕と晴彦がよく利用する喫茶店だ。彼の宿題や課題を見てあげる時なんかは大抵そこを使う。
「ゴールデンウィークの課題で分からないところでもあるの?それだったら電話口でもいいと思うんだけど……」
『課題はどうでもいいんだ。すげぇもん手に入ったからお前にも見せてやろうと思ってよ』
なんだか胡散臭いなぁ……でもここで無視したら後でへそを曲げられそうだ。
「わかったよ。今から行くから先に向かってて」
『おう、期待してくれてもいいぜ?』
彼の言うすごいものというのは大抵の場合大したことがない。
貴重な休日の半日を悪友に付き合わされて潰される事に暗澹とした気持ちになりながら外出着に着替える。姉ちゃんは……別に付き合せなくていいか。晴彦も喜びそうもないし、喜ばせてあげる義理もないし。
「よう君お出かけ?」
「うぉぁう!?」
着替えている時に唐突に背後から声を掛けられたものだから思わず飛び上がる。声の主はもちろん姉ちゃんだ。
何故この人は僕が着替えていたりするとするりと音もなく部屋に入ってくるのだろうか。心臓に悪い事この上ない。
「晴彦に呼び出し食らってね。お昼には帰ってくるつもりだから作って待っていなくていいよ」
むしろ作らないでいて下さい。我が家の経済の寿命がマッハなので。
「お姉ちゃんもついて行っちゃだめ?」
「大して面白いこと無いから行かないほうがいいよ。多分家でゴロゴロしてたほうがマシ」
「ふ〜ん……」
大して興味がなさそうに返事をして部屋を出ていく姉ちゃん。
まぁ完全に私事だし下手に付き合わせるのも悪いしね。
そんな訳で財布をポケットにねじ込み、外出用のバッグを背負う。
家の外に止めてある自転車で喫茶店へと向かうことに。
この時、僕が面倒臭がっていかなければ……まぁいくら悔やんでも後の祭りなんだけどね。
────────────────────────────────────────
姉ちゃんは暇になると僕の頬をむにむにと弄り始める。
「あはは〜♪むにむに〜」
「…………」
お返しに脇腹をふにふにしてあげると……
─パシーン!─
真っ赤になっておもいっきり叩かれる。
一回脳震盪になりかけたことも。
────────────────────────────────────────
喫茶店『アラビア』は店内にジャズの静かなBGMが流れる落ち着いた雰囲気の店だ。
店主は健康的な褐色肌のお姉さん。たしか……玲衣奈(れえな)とかいう名前だったと思う。
ナーヴェさんと同じく帰化した人だ。なぜかこの近所って元々外国に住んでいた人が多い。
「こんにちは〜」
「あぁ、よう坊だね。晴彦ならいつもの奥のテーブルだよ。よう坊はいつものエスプレッソでいいかい?」
「おねがいします。」
彼女に一例すると奥のテーブルに座っている晴彦の下へ。さて……貴重な休日を潰してまで見せたいものというのは一体何なのだろうか。
くだらない物だったら勘定は晴彦持ちだな。
「おう、来たか」
「で、例のブツは何だ」
ノリでなんとなく密売人の会話っぽく。こういった妙なノリは彼も大好物だ。
「今回はサツの目を欺くのに苦労したぜ……何しろ正式な許可なんて降りるも
[3]
次へ
ページ移動[1
2 3 4 5 6]
[7]
TOP [9]
目次[0]
投票 [*]
感想[#]
メール登録