第六十四話〜誰かハエ叩き持って来い。でかいの〜

昔も昔、まだ魔王が淫魔でなかった頃の話だ。
遺跡やダンジョンに設置されているトラップは侵入者を撃退したり、命を奪うための物だった。
トラップにより命を落とした冒険者の遺品はそのまま魔物達の物資に……なんてことがあったかはわからないが、少なくともそんな物騒な物が合ったのは確かだ。
んで、今回ツアー客を引き連れて歩きまわる遺跡にも少なからずそういったトラップが残っているのはご存知の通り。何しろ数が多すぎて撤去しきれていないそうな。
そんな埃を被っているトラップ達が退屈する暇がなくなったのが今回の話。
地形を利用して戦闘を行うのは基本。罠師という訳ではないが、これを上手く使ってやらない手は無いだろう。



〜宿屋『エクスプローラー』〜

頭の中に響き渡るアラーム音。
時刻はAM6:30……起床時刻だ。

『お早うございます、マスター』
「ん、おはよ」

起床時の挨拶を相棒にして寝汗を落とすべく部屋に備え付けられたシャワールームへと向かう。出てくるのは水だけだが……まぁ無いよりははるかにマシというものだ。
ある程度汗を流し、着替えを取りにシャワールームを出ると扉が開いてミストが入ってきた。

「あぁ、ミストか。おはよ」
「アルテア……その格好は朝から刺激が強すぎるぞ」

そういや腰にタオル一丁の全裸だったか。体もろくに拭いてなかったな。

「まだシャワーから出たばかりだから朝食なら先に行っておいてくれ。後から向かう」
「私としてはこちらが朝食でも一向にかまわ「俺が構うから行けってんだ」むぅ……」

近づこうとしたミストをひらりと躱して腕を掴み、開いている扉の外へと放り投げる。
そのまま扉を閉めて鍵を掛けると手早く身支度を済ませた。

『手馴れたものですね。伊達に場数を踏んだわけでは無いという事ですか』
「全く……いらんスキルばっか上がる。……そういやあいつ鍵掛かっているのにどうやって入ってきたんだ?」

─ガチャリ─

「実は合鍵を……」

デザートイーグルを展開。ゴム弾を装填し、廊下の壁へ向けて発砲。
跳弾を利用して背後からミストの手にある鍵をはじき飛ばしてキャッチ。間髪入れずにドアを閉めて再び鍵をかける。
落ちたゴム弾をつまみ上げてゴミ箱へ放り入れて再び身支度を開始した。

<流石だな、アルテア。
それほどでも。



「今日のツアー客って何人ぐらい来る予定なんだ?」

宿の食堂で出されるスクランブルエッグを口に運びながら今日の仕事の打ち合わせをする。
ちくせう、普段食べているのよりいい材料使ってんな。

「一人頭10人程度の割り当てになるはずだ。おおよその内訳はカップル二組に男性客が6人程度……ごく偶に人間の女性が来る事もある」

フィーはこういった仕事をしたことがあるのか、スラスラと答えてくれた。忘れがちではあるがこいつって俺の先輩なんだよなぁ。

「何故人間の女性が?」
「魔物になりたいという願望を持つ者が殆どだがごく偶に考古学者などもいたりするな。彼女らの行動は見ていて楽しいぞ」

遺跡のあちこちをちょこまかと動きまわる女性を想像してほんの少しだけ和んだ。

「……アルテアはそういった知的な女性の方が好みなのか?」
「待て、何故そっちに話が飛ぶ」

捨てられた子犬のような目で俺を見ないで下さい。というかその目付きができるのは女の子と呼べる年齢までですよフェルシアサン。

「とにかく、非戦闘員の引率は安全第一だ。決して誰一人として目を離さないように」
「了解。所で……緊急事態の場合はどうする?」

俺の言う緊急事態というのは……

「例の勇者、か」
「あぁ、この辺りに潜伏しているって事はちょっかいをかけてこないとも限らないだろ?」

ちょっかいで済むのであればまだ可愛い物だろう。
しかし、今回引率するのは戦闘訓練など受けていない一般人ばかりだ。奴が現れた際の被害たるや目も当てられないぐらいの物になるだろう。

「私とフェルシアが足止めに回ろう。その間アルテアはツアー客の避難誘導を頼む。」
「了解。撹乱は任せろ」

ダミーコートがあればデコイを大量に撒くことができる。いくら勇者と言えど、頼っているのは大半が視覚情報だ……大量の偽物の中から本物を見抜くのは容易ではない。

「ま、そんな所か。案内ルートは危険なトラップがある通路・部屋などは迂回、名所となりそうな場所を回って土産物屋を通過。途中で住人が出てきたら好きに婿選びをさせると」
「あぁ、そうだアルテア。お前がどこかの女に引っかからないように護符を作っておいたから持って行くといい」

そう言うとミストが小さな革袋を俺に渡してくる。

「お守りか……何が入っているんだ?」
「私のい「ストップ。それ以上言うな。わかったから」

「待ってくれ!私も今からつく「お前も暴走すんな!つ
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