価値観というのは人それぞれだ。何に価値を見出すかというのはその人物が通ってきた道筋によってだいぶ違ってくる。
友人が少なかった奴はその少ない友人をだれよりも大切にするだろうし、貧乏だった奴は金に固執する傾向がある。
死ぬような目に遭ったことがあれば命を大事にするだろう。
逆を言うと、その価値観は他人でも植えつける事ができるという事でもある。
長い年月をかけて繰り返しそういった価値観を植えつけることができればそいつは何よりもその植えつけられた物を大事にするようになるだろう。要は洗脳みたいなもんだ。
じゃあそいつはそれ以降植えつけられた物のみを頼りに生き続けるしかない……かと思えばそうでもない。周囲の奴がきちんとその洗脳を根気強く解いてやればそいつだって何が本当に大事なのかわかってくれるさ。
……まぁ本当にわからず屋なら鉄拳制裁も辞さないけどな。
〜冒険者ギルド ロビー〜
「ねぇ、誰か声掛けなよ……」
「そうは言っても……ねぇ。なんか怖いし……」
何時もの席に座って空中をぼうっと眺めながら時間を過ごす。
別に何も見ていないという訳ではない。昨日の夜にデータ整理をしていたら古い映像ソフトを見つけたのだ。
題名はゲキ・ガンガー3。2,3世紀程前に放送された昔のアニメだ。
勧善懲悪の単純なストーリーながらその訴える言葉は強く胸に響き、心を震わせる。
それをたまにニヤニヤ笑いながら見ている。
傍から見たら何もない場所を眺めてニタニタしている気味の悪い男に映るのだろうが、これが第二世代なので仕方がない。
「おにいちゃん、おひざすわっていい?」
「ん、アニスちゃんか。おいで」
そんな様子の俺に対して特に嫌悪感を抱くこともなくアニスちゃんが膝の上によじ登ってくる。小さなお尻を俺の膝の上に乗せるとパタパタと上機嫌に足を振り始めた。
「おにいちゃん、さっきからなんでなにもないところみてわらってるの?」
「あ〜……うん、確かにそう見えるよな。頭の中で演劇みたいな物を見ていたんだ」
「おしばい?」
「そ、おしばい。アニスちゃんにも見せられたらいいんだけどなぁ……」
生憎網膜への直接投影は脳チップ処理を受けた者しか使えない。
映像ソフトをニューロジャックで受け渡して見せる、という手順を踏むわけにもいくまい。
「どんなおはなしなの?」
「正義の味方がロボットに乗って悪い人を懲らしめる話。よくある話だけど面白いんだよね」
「ろぼっと?」
出てきた単語の意味がわからなかったのか小首を傾げるアニスちゃん、
少し髪が揺れる度にリンスか何かの爽やかな香りが上がってくる。今は柑橘系か。
「鉄とか合金で出来た巨大な人型の乗り物、っていうのかな。かっこいいんだぜ」
「へ〜……みてみたいなぁ」
無邪気に足をブラブラさせながらまだ見ぬ鋼鉄の巨人に思いを馳せる幼い少女。
……別に可愛いと思うシチュでもないか。
「ゴーレムとかそういった物ではないのかの?」
話を聞いていたエルファが隣から口を挟んでくる。
膝の上は先を越されたので今日は椅子の上だ。
「概ね合ってるかな。基本は生物ではないってのが根本的な違いかも。物によっては機械生命体とか生体コアとかいう半分生き物見たいな奴もいるけどな」
『大別的に見れば私も機械生命体のロボットのような物ですね。中身は有機AIユニットと呼ばれる物です』
「ふむぅ……でんのーくうかんでの兄様のアレもロボットのような物かの?」
電脳空間……シュミクラムか。
「あれは電子体……電脳空間での自分の分身をプログラム……え〜と、その空間内でのみ通じる魔法のようなもので組み替えているから……どちらかというとあれも俺自身と捉えるのが正解か。殴られりゃ痛いし、腕が吹っ飛ばされりゃ現実世界でも暫くは腕が動かせなくなる」
「魔法少女みたいな物かの?」
「色々と語弊がありすぎて否定したくなるが概ねそんな所だ」
あのゴツい機械の体を指して『魔法少女です』は無いだろう。
あの装甲だらけの機体にフリフリのドレスを着せ、チンチクリンステッキをもたせた姿を少し想像してみる。
「……ないわぁ」
「何を想像しとるんじゃ兄様は……」
「世にもえげつない光景」
常人が見たらすぐさまその製作者を病院送りにしているレベルだ。
むしろ病院が来て欲しい。
「それにしても……巨大なゴーレムとは面白い話じゃの。やはり世界が違うと考え方も違うという事かのぉ……」
「……エルファ、作ろうとしているならやめとけ。」
「ん、なんでじゃ?」
この機動兵器と呼ばれる物はとんでもないドリームブレイカーだったりする。
「たとえ小型の物1機だったとしても建造費だけで大国の経済が軽く麻痺に陥るぐらいの費用が掛かるんだぜ?」
「な……!?」
「さらにそいつを壊して修理すると小国が
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